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7章(2)
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リノルはひんやりした影の中から、光のあたる場所に引き出された。
容赦ない明るさが、やつれてよりいっそう小さくなったような顔を、くぼんでくまのできた目を、唇の端の小さな傷跡を、照らした。
フレディは眉をひそめた。
彼は、リノルが上着の下に巻きつけていたマフラーを乱暴につかんだ。
せわしない手つきでそれをほどき、次いでシャツのボタンを、三つばかり外して素肌をむきださせた。
リノルは首筋に、鎖骨に、胸に、彼の火のような視線を感じた。
島で受けた陵辱の痕や痣がまだ消えておらず、とくに首の付け根には、すぐにそれとわかるような赤紫の歯形が残っているのを、自分でも知っていた。
リノルが咽喉もとを手で隠そうとすると、フレディが激しくその手を叩き落した。
言い訳はするまいと思っていたにもかかかわらず、彼の無言の非難にあうと、言葉がひとりでに口をついて出た。
「なんでもないんだ。名前も知らない男だよ。ただ、どうしても断れないわけがあって……ねえ、ぼくに裏切られたなんて思わないで。そんなことじゃないんだから」
フレディはリノルを睨んだ。
あらゆる感情が、まばたきする間にその鋭い眼差しの中で燃え上がり、封じ込められて悶えた。
フレディはふいに、低く声をたてて笑った。
痛みと、乾いたあきらめの混じった笑いだった。
「裏切る? どれだけの時間、俺がおまえの無関心に耐えたと思う? そこに今さらおまえの裏切りとやらが加わったから何だというんだ? ああ、おまえのことはよく知っているさ。おまえがそんなになるまで黙って言いなりになったとしたら、理由は一つしかない。馬だろう」
あらゆる記憶が脳裏ではじけるように次々と浮かんできた。
あの死んだ山羊、あの馬たち、あの衝撃――。
リノルは身震いして顔をそむけた。
「それでおまえは」
フレディは抑えた声で続けた。
「二度としないと俺に誓うこともできない。何を約束されたのか知らないが、同じ条件をちらつかされたら何度でも同じことをする。違うか?」
リノルは彼の足元に身を投げ出した。
彼の両手を取って、乾いた肌に無言で謝罪の涙をそそぎ、自分の額に、次いで唇に押し当てた。
フレディは許しを請うリノルを、だまって見下ろしていた。
その視線は冷ややかで、もう何の表情もなかった。
だが、彼の端正な唇がゆっくりと歪み、かすかな笑みを浮かべた。
すべてをわかって受け入れたような、だが奥に鈍い陰鬱な影をひそめた微笑だった。
フレディは握られた手の一方を引き抜くと、殴ろうとするように拳を固めた。
だが何もしないままその手をひらいて、そっとリノルの頬にさわった。
指先がやさしく首筋をたどり、それから白い肌ににじんだように浮き上がる咬み痕をさぐりあてて、止まった。
彼はふいに、指に力をこめ、治りきらない赤紫の痕に爪をたてた。
リノルは身をすくめたが、逃げようとはせず、伏せた睫毛を震わせて低く頭をうつむけた。
食い込んだ指が離れて、ふたたびゆるく動いた。
「……ばかだな」
フレディはリノルにとも、自分自身にともなく、つぶやいた。
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