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3章(5)
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森は瑞々しかった。
巨木の幹を覆う、湿った苔にとまった小さな蝶が、白銀の羽根を震わせていた。
小道をたどると、やがて浅い川にさしかかった。
川の水は、底のきれいな小石のひとつひとつが見えるほど澄んでいた。
馬たちはそこで水を飲んだ。それが習慣なのだろう。
それから、土手を歩いたり、浅瀬で水をはねあげたりしながら川をさかのぼっていった。
やや水の深い場所にさしかかると、彼らは臆することなく川の中に踏み込んでいった。
リノルは馬を追って、服のまま川に飛び込んだ。
水は冷たかったが、ひどくさっぱりして、生き返った気分だった。
彼は川の中で服を脱ぎ、洗って、木の枝にかけた。
後ろから先ほどの馬が、鼻先でリノルの背をつついた。
リノルは笑って、馬の首に腕をなげかけた。
リノルと馬は、あたかも同じ母から生まれた兄弟のように、水をはね上げてじゃれあった。
馬はリノルの腕やわき腹を甘噛みした。
その口には、三日月のように細くするどい犬歯が隠れていた。
馬らしくなく、むしろ肉食獣の歯に近い。
だが、もう驚かなかった。
リノルは両手に水をすくって玉虫色に輝く毛皮を洗ってやりながら、耳元でささやいた。
「おまえより人間の方が、よほど化け物じみているよ。おまえたちの主人を悪く言いたくはないけれど、あのひとに昨夜みたいなことをされると、ぼくはもう気分が悪くて吐きそうになるよ」
「それはあのひとが男だからだ、と言いたいところだけれど、そうじゃないんだ。なにしろぼくは女性の身体に対しても、何の興味も情熱も持ち合わせていないんだからね」
「だってねえ、おまえ、人間の女なんかよりも、おまえのたてがみ、おまえの眼、おまえのその身体のほうが何千倍も美しいよ」
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