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不可逆〔2〕#兄
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「兄さん… っごめん、好き… 好きなんだ。」
悲壮な表情と熱情を秘めた切ない声。
今まで知らなかった”男”の弟が、何度も何度も、繰り返し脳内で再生される。
くそ… またかよっ。
我に返り、脳裏に映る映像を乱雑にかき消した。
正直、昨夜の出来事の大半は覚えていない。いや、正確には”覚えていたくない”のだろう。今でもまだ、あの苦杯が夢の中で起きた事のように思える。
ただ二つ、尋常でない下半身の痛みと、しばしば浮かぶあの光景…。それらが悪夢を、確かな現実へと結び付けるのだ。
「___らもと…
_っおい、原元!」
「はいっ!」
自分を呼ぶ声に頭を醒まし、空っぽの顔で後ろを振り向く。社内で唯一親しくしている同期の姿に安堵し、力んでいた肩の力を抜いた。
「…っなんだ、小坂か。 どうした。」
「どうしたって…、 もうそろそろ会議だろ?
移動した方が良いかと思って声かけたんだけど。」
「あぁ、そうだ。 会議…… 次、会議か。」
瞬時に仕事脳に戻し、必要な資料と電子端末を持って慌ててイスから立ち上がる。
「ーっっ!!」
腰を動かすと同時に襲いくる臀部の激痛に顔をしかめ、反射的に腰の周辺に手を当て動きを止めた。本当は動くのはおろか、座ることすら苦痛になるほどに辛い。
しばらく静止したまま動かないのを小坂が不審そうに見つめる。
「おい、大丈夫か?? ヘルニア? 」
「…違ぇーよ! 大丈夫だ。大したことない。」
「ふーん……。お前、今日どうしたんだ? 遅刻するし
動きは鈍いし、仕事も全然進んでねーみたいだけど。
つか遅刻とか初めてじゃね?いつもの機敏な原元く
んは何処に行っちまったんだよ〜ぅ!」
「チッ、 気色悪りぃ声出すな! 気持ち悪い。 」
「うっわ! ヒデー!! 俺本気で心配してやってるのに!
あ。でも病院行っとけよ?ヘルニアかもしれねーし。」
「………んでそんなにヘルニア推しなんだよ、お前は。」
痛みに耐え、何事もなかったかのように歩き出す。
いつもと変わらない小坂の陽気でおちゃらけた様子に心が少し軽くなった。触れて欲しくない所を綺麗に避けて話をしてくれる。見た目に反して頭のよく切れる優秀な男だ。
「あ。 なぁ、今日お前の家に泊まらせてくれねぇ?」
「別に構わねーけど…。 何?弟と喧嘩でもした?」
「あー… まぁ、そんな感じ。 ありがとな。」
相変わらず鋭いな… こいつ。
まぁでも、ホテル泊まりよりも
大幅に手間が省けてよかった…
あんな事があった後に平然と顔を合わせられる程、自分の精神は強靭では無い。
悩みの一つであった寝床を確保し、一安心して仕事に集中した。
それでも、やはり弟の幻覚は消えることなく、亡霊のよう付きまとっては延々と悪夢を蘇らせるのだった。
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