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家
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「ただいま」
葵が帰ると、奥からパタパタと足音が聞こえ、葵の母、椎名 百合子(しいな ゆりこ)がリビングの扉から出てきた。
「葵、おかえりなさい」
「わざわざ玄関まで迎えに来てくれなくていいって、いつも言ってるのに」
「ふふ、ごめんなさいね?葵が帰ってくるのが待ち遠しくて」
「…そっか」
「今日はいつもより帰ってくるのが早いんじゃないかなって思ってたの」
「まあ始業式だけだからね」
百合子は、あまり強い人ではなかった。
葵が「ああなる」までは、パートをしたり散歩をしたり、比較的外に出ることが好きだった。
ご近所さんとの付き合いも、とても大切にしていた。
だがしかし、あることがきっかけでまったく外に出なくなってしまった。
一日中家にいて、家事だけをそつなくこなす。
それ以外はテレビを見たり本を読んだり、滅多なことが無ければ外には出ない。
そんな百合子を葵はどうにかしたいという反面、自分のせいでという負い目も感じていた。
「母さん…もう僕は大丈夫だから」
「…何言ってるの?」
「一日中家にいる必要なんてないんだよ?何かあったら連絡するから、安心して好きなことをしてほしい」
「……」
「ねえ、母さん」
百合子はしばらく下を向き、何かを考えるような素振りを見せた。
だがそれもほんの少しのことで、すぐに顔をあげると、葵に微笑みかけた。
「お母さんのことは心配しなくていいのよ」
「でも」
「お母さんはね、葵のことがとーっても大事なの。だからね、これがお母さんにとっての幸せなのよ」
「だからって」
「葵」
百合子の顔から微笑みが消えたと思ったら、今度は大粒の涙が零れ始めた。
「もう…嫌なのよ」
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