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cast and lady・1
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ホストクラブに来る客のことを、オレたちキャストは「姫」と呼ぶ。
まあオレなんかは滅多に「姫」扱いしてやんねーし、「姫」呼びすることも滅多にねーけど、大抵のホストはちやほやするし、丁寧に接客すんのが普通だ。
ホストクラブでは通常、市価の10倍の値段を酒につける。1万円の酒を10万で出し、それに30~40%のTAXがついて、13万~14万。
そんだけの高い金払ってホストクラブに通うのは、それなりの付加価値を感じてくれてんだろうと思う。
たくさんのキャストにちやほやされてぇってのもあるだろうし、好みの男にときめいたり、疑似恋愛を楽しんでるってのもあるだろう。
中には本気でハマッちまって、修羅場やらかしたりする女もいたりするけど、そういうのは少数派で、大抵の常連は色々わきまえてるもんだ。
わきまえてねぇ困った客は、痛い客、痛客と呼ばれる。
一言で痛客といっても、それこそ痛さには色々ある。
よくあるのは、キャストにやたら飲ませようとする客。デキャンタで出される水割り用の安い酒を、やたら一気させたり、「飲んで飲んで」って煽ったり。
そりゃオレだって、一気飲みの1回や2回、場を盛り上げるためには必要だとも思うけど、5回6回7回8回とか続くと、「いい加減にしろ」って言いたくなる。つーか言う。
中には、水割りじゃなくてストレートで一気しろとかバカなこと言ってくるヤツもいて、そん時はさすがに席立った。ざけんじゃねーっつの。
後、自分の担当以外に冷たい客も痛いよな。
指名の多い売れっ子ホストが担当だと、どうしても客1人当たりの接客時間が減っちまう。他のテーブルに接客しに行ってる間、ヘルプに誰かが入るんだけど、そのヘルプに対して、態度悪いのが結構多い。
ぶすっとしたりツンケンしたり、一言も喋んなかったり、睨んで来たり。
オレなんか、そういう客にはそれなりの態度しか取らねーからいーけど、リオンみてーな気が弱いホストだと、半泣きになってる時もある。
そのくせ担当が自分の横に座ると、途端に機嫌直してにこにこになったり。
「いい子で待ってた~?」
「当たり前だよぉ~」
って、しれっと上機嫌で会話したり、マジふざけんなって感じだ。
ちなみにこの手の痛客は、史樹の常連に多い。
さっきまでキツイ目でヘルプいじめてた女が、「史樹く~ん、寂しかったぁ~」って甘えた声出して媚びる現場を、この店に来て何度見たか。
常連があんま態度悪いと、史樹の店での立ち位置も悪くなるっつーのに、そういうこと考えらんねーのがまた痛い。
まあ、そういうのがあってもなくても、気に食わねーことに変わりねーけどな。
オレらキャストに迷惑かけんのもいい加減にして欲しいけど、もっとタチ悪ぃのは、他の客にまで迷惑かけるヤツだろう。
うちの店は客席ごとにパーテーションで何となく仕切られてっけど、もっと規模の大きい箱だと、普通のカフェみてーなソファ席も多い。そんで、そういうとこで多いんだ、いきなり隣のテーブルに乱入する女。
大声で喚いたり、隣の客に絡んだり、接客中のホストに絡んだり。中には、いきなり抱きついて来てキスを迫ったりしてくるヤツもいて、痛ぇことこの上ねぇ。
酔ってんのか寂しいのか元々酒癖が悪ぃのか知らねーけど、トイレ行く以外は席立つんじゃねーっつの。
あんまり痛い行動が頻繁だと、待ちの間に誰もヘルプに入らず、放置されることもある。
最悪は出禁、出入り禁止措置。
そこまでなるのは滅多にねーけど、決して有り得ねぇ訳じゃねぇ。
ホストクラブは、どこにでもいる普通の女が、誰でも「姫」になれる場所。せっかく高い金払って店に来てんだから、それなりに楽しい時間を過ごさしてやんねーと悪ぃよな。
「嵩さん、21番テーブルにヘルプお願いします」
待機所で黒服に呼ばれ、「おー」とうなずいて立ち上がる。
「担当は?」
「史樹さんの太客です」
黒服の言葉に、ちっ、と思わず舌打ちしたけど、指名のねぇ時に誰かのヘルプに入んのは、持ちつ持たれつだから断れねぇ。
「行くぞ」
教育係を務める新人に声をかけ、2人並んで薄暗い店内、キラキラのシャンデリアの下を大股で横切る。
痛そうな客なら、リオンに後を任せてさっさと席立つか。そんなことを考えながら歩み寄った21番テーブルには、ハムスターのキグルミ着込んだ女がいて、頭を抱えそうになった。
勘弁してくれ。
そりゃ、ジャージ上下で来るような猛者もたまにいるけど、一応都内の繁華街だぞ、キグルミはねぇだろ。
「失礼します。お席ご一緒させていただいてよろしいですか?」
内心のツッコミを押し隠し、テンプレの挨拶と共に接客スマイルを貼り付ける。キグルミの客は軽く握った両手を口元に押し当てて、「どうぞにゃん」って言いやがった。
なんで「にゃん」なんだよ、ハムスターじゃねーのかよ?
リオンなんか思いっきり動揺してて、「失、礼しまっ」ってドモってる。オレの方も、頬がひくっとなんのを押さえつけ、何でもねぇフリして座んのが精一杯だった。
「ありがとうございます」
一礼して、客の向かいの丸イスに座る。接客時、客の隣に座んのは担当するホストだけで、ヘルプの場合は向かい合って座んのが普通だ。
このヘルプ席、店によって色々ではあるけど、基本は背もたれのねぇスツールになる。
うちの店のはころんとした丸形で、ちょっと軽い。背筋を伸ばして浅く座りゃいーんだけど、うっかり重心を後ろに移すと、すぐにバランスを崩しちまって――。
「うわっ」
隣の丸椅子に座るなり、リオンがイスごところんと後ろに転がった。
何度目だ、ってツッコミを呑み込み、頭を抱える。
「大丈夫にゃん?」
両手を口元に当て、こてんと首をかしげるハムスター女は、やっぱどう見てもおかしくて、それにもまた、頭を抱えそうになった。
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