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寮に何人住んでんのか知んねーけど、どうやら毎日賑やかではあるらしい。
寮住まいじゃねーのに入り浸ってるヤツも多いみてーで、オレを見ても変な顔されたりしなかった。女どもも帰る様子はねーし、無法地帯っつーかカオスだ。
やがて昼前になると、「姫とデートだ」って出掛けてくヤツが出始める。
デートっつーか同伴だろ、って思うけど、リビングには女もいるし、その辺の本音は黙っとくに限る。
「じゃあ、オレらもデートしよーかぁ?」
そんなことを言いながら、女2人の肩を抱いてソファから立ち上がる悠汰。
「メシは奢るからさ、そのまま店行こうぜ」
って。すげー気前よく聞こえるけど、払う金は確実に女の方が多そうで、さすがだなって感心した。
別に、自分の指名客をどう誘おうとそれぞれの勝手だけど、売れっ子は売れっ子なりに頑張ってんだなと思う。
オレはサービス残業はしねぇ主義だし、アフター引き受けることも滅多にねぇけど、さすがに同伴はたまにやる。
同伴で行くのは、無難に映画とか水族館、買い物付き合ってカフェ飯食って、ってのも多い。
遊園地も多い。
客に払わせんのが基本だからどうでもいいけど、数時間しかいらんねーのに、パスポート払うのも勿体ねぇ話だ。ただ、そういうのもホストと客の定番コースではあるようで、同伴中の同業者をよく見かけた。
プライベートで女の買い物に付き合うなんざ真っ平御免だけど、営業だと思えば我慢もできるし、正直なところ旨味もある。
「このシャツいーな」つったら買ってくれることもあるし、太客相手なら、逆に小物を買ってやることもある。1万のピアスを買ってやって、その後店で5万6万のシャンパンを入れさせんだから、損はなかった。
色恋営業やるようなホストは、指輪贈ったり枕やったりもするらしいけど、さすがにそこまで仕事熱心にはなれねぇ。つーかプレゼント自体、数ヶ月に1度やりゃあいい方だ。
皆無じゃねーけど滅多にねぇ、その辺のさじ加減が大事だと思ってる。
……リオンもその内、誰かとアフターやったり同伴やったりするようになんのかな?
「嵩もいるし、今日は嵐かも知んねーなぁ」
勝手なことを言いながら、女2人を伴ってギャハハと出て行く悠汰をじろっと睨む。
「嵐だと困ります、ね」
冗談を真に受けるリオンも睨む。
「……嵐になる前に、メシ行くか?」
ドアの方をアゴで差して誘うと、リオンは「ええっ」と目を見開いた。
「あの……同伴?」
って。だから、ホスト同士じゃ同伴になんねーだろっつの。
ゴンッとゲンコツを1つ落とし、ネクタイを拾って締め直す。どっちみち、いっぺん帰って着替えなきゃなんねーし、同伴は無理だ。
リオンも借りてるような、店に備え付けのレンタルスーツもあるけど、どれもサイズがビミョーだし、デザインもビミョーだ。毎日クリーニングする訳じゃねーから、色んなニオイが染みついてるし、やっぱスーツは自前のに限る。
うちに帰んのに連れてってもいーけど……いや、別に同伴じゃねーんだし、それこそそんな必要もねーだろう。メシ食って解散してまた店で会う。それがただの同僚にはふさわしいと思った。
オープン前に、店の裏口から外に出ると、白衣姿の茶髪の薬局店員が、ホウキを振って「おはよう」って声を掛けてきた。
「二日酔いどう?」
にこやかに訊かれて、じろっと睨み返す。
「うるせー、てめぇ、昨日ウコンだっつって何飲ませた?」
「ウコンだって言ったんなら、ウコンじゃない?」
ニカッと爽やかに笑いながら言われると、余計に胡散臭ぇ。
「疑い深い人って、過去に……」
って、すぐに心理学持ち出してくるとこも、胡散臭かった。
年上なのか年下なのか、相変わらず分かんねぇ男だ。オーナーとも懇意っぽいし、悪人じゃねーとは思うけど、イマイチ信用しにくいのは、この人柄のせいだろう。
「ウコン飲んだ前後から、記憶がねーんだけど」
オレの苦情に、松崎は「うわぁ」って大袈裟に眉を下げた。そのオーバーリアクションがすげーウゼェ。
「酔った時の記憶は、同じくらい酔った時に思い出すらしいよ」
って。そんなウンチクはいいっつの。ホントかどうか検証すんのもバカバカしくて、ふん、と鼻で笑う。
「じゃあ次は、記憶をなくさないの調合しとくから」
爽やかに言われて、「いらねーよ!」と背を向ける。調合ってとこが既に怪しい。効き目がビミョーでもいいから、普通に市販品をくれっつの。
店内の掃除が終わると、その後は恒例のミーティングが始まる。
「今日も楽しんで、気合入れるよ」
女性オーナーの掛け声に、みんなが「はい!」と声を揃えて返事する。立って円陣組んで声出しして、この辺はちょっと体育会系のノリでもある。
オレもそんなに他の店のこと知ってる訳じゃねーけど、どこのホストクラブでも大体、ミーティングの内容は一緒らしい。
幹部の挨拶に、今日の抱負、売上目標に昨日の成績発表。時間があれば、コールの練習なんかもする。
シャンコにも色々種類はあるし、レパートリーは多い方が、客を飽きさせることもねぇ。
練習は新人のためでもあるけど、照れを失くすって意味もある。煌々と点いた灯りの中、全員で輪になった状態で、シラフで、マイクなしで、コールの練習すんのはちょっと恥ずかしい。
うちの店1番の新人リオンも、まだまだ恥ずかしさは抜けねぇみてーだ。
「リオン君、コールの8番やってみよう」
オーナーに指名され、「う、うー」と唸る。何も言う前からすでに真っ赤で、つむじまで染まってておかしかった。
いつもの夕方の、いつもの店内。
ギスギスとは無縁のホストクラブNUは、今日も平和で和やかだ。
色々失敗することがあっても、オーナーは上手にキャストをヤル気にさせて、「楽しもうね」っていつも言う。幹部がエラぶることもねぇし、エースだって驕らねぇ。
昔はこの業界、リンチやら暴力やらもあったって聞くけど、今はうちに限らず、大抵和やかではあるらしい。
一部のカスホストやゲスホストのせいで、店内の空気が悪くなることもあるけど、そんでも上からの厳しい叱責は滅多にねぇんだとか。
勿論、売れっ子贔屓ってのもあるんだろうけど、そんだけの話じゃなくて。
「今の若い子って、ちょっと叱るとすぐに辞めちゃうんだよね……」
オレらとそう変わんねぇくらいに見えるオーナーが、「若い子」って遠い目をしてぼやくのを見て、ダークな世界を垣間見たような気分になった。
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