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吸い付くような肌だった。正直、予想外だった。
『リオーン、お前、色白いな』
教育係を担当する、不慣れでドジで目が離せねねぇ新人に、酔った勢いのまま後ろから抱き着く。
目の前の白いうなじに誘われるままキスすると、面白いくらいピンクに染まって、そん時はすげーそそられた。
『なっ……嵩さん……っ』
焦ったような声は、どこか甘くて拒絶してるようには聞こえねぇ。
振り払おうと身をよじる仕草も、なんかウブで可愛くて、コイツでもいいかと思った。
色とりどりのネオンの下、リオンの背中に縋り付いたまま、眠らねぇ街をふらふらと歩く。自力じゃまっすぐ歩けねぇ。気分いい。
『嵩さん、飲み過ぎです』
ぼそぼそと告げられる苦情に、うなじを舐め上げることで答える。
最近、右手で処理してばっかだったけど、たまにはひと肌を抱きてぇ。一度そう思うと、なんだか股間に熱が溜まってきて、我慢できそうになくなった。
ピンクに染まる耳元に、はあ、と熱い息を吹き込む。
『なあ、ホテル行かねぇ?』
意識して甘く囁くと、リオンの肩が面白いようにビクッと跳ねる。
『な、に言って……』
上ずった声で抵抗されても、やっぱ嫌がってるようには見えなかった。
肩に回してた腕を胸元に移し、手加減しながら抱き締める。ひう、と息を呑む声が、あんま色っぽくなくて、そんでもスゲーそそられた。
目が覚めると、また寮のリビングだった。
この間と同じく床に転がってて、背中と片腕が地味に痛ぇ。
「痛ってぇ……」
ぼやきながらゆっくりと起き上がり、無人の部屋の中を見回す。この前の女2人はさすがにいなくて、部屋ん中はがらんとしてた。
今、何時だろう? 窓の外が明るい。
オレ、なんでまたここにいんの? 頭を押さえて記憶を探るけど、記憶は店ん中で途切れてて、何も覚えてなさそうだった。
代わりに思い出したのは、1ヶ月も前のあのことだ。
なんで今頃? そう考えてふと、白衣を着た軽薄な男の顔が思い浮かぶ。
『酔って失くした記憶は、同じくらい酔ったら思い出すらしいよ』
ホントかウソか分かんねぇ、いつ聞いても胡散臭いうんちくを思い出し、くそっと悪態をつく。
そういや飲みながら、自分でもピッチ早ぇなと思ったっけ。けど、昨日はむしゃくしゃしてたから――。
むしゃくしゃの理由を思い出し、それにもまた、くそっと思った。
リオンは結局、あの後ホテルに行ったんだろうか? 戻って来たヤツと顔を合わせた記憶がなくて、スッキリしねぇ腹にモヤモヤが募る。
別にあんなドジな後輩どうでもいいし、オレだって……と、そう考えたところで、ギョッとした。
「マズイ、アフター……」
シャンパン入れる代わりに、アフターOKしたんだっけ。あれ、どうなった?
行った記憶もねーし、「行けねぇ」って断った記憶もねぇ。待ちぼうけくらわしてすっぽかしたか? 記憶にねぇだけでちゃんと行ってた、とかねーのかな?
細客ならともかく、昨日の客は太客で、切られるとかなり痛ぇ。
連絡しようと、慌ててスーツの懐を探るけど、目的のモノがいつもの場所に入ってなくて、二重に焦る。
ヤベェ、ケータイどこやった?
どっかに置き忘れたか? どっかに落としたか? 思い出そうとしてもマジ、何も覚えてなくてスゲー焦った。
今まで溜め込んだ顧客記録、客の女たちの連絡先……いや、その前に、取り敢えずケータイ会社に連絡して、ストップして貰わねーと!
電話番号は? 電話は? 連絡手段さえ目の前になくて、柄にもなく動揺する。
けど、ふらつく体で立ち上がった瞬間、スーツの右ポケットが妙に重いのに気が付いた。
手を突っ込むとケータイがあって、ふうーっと安堵の息が漏れる。こんなとこに普段入れねーハズだけど、そもそも記憶がねーし、よく分かんねぇ。
「……ビックリさせんなよ」
ぼそっと悪態をつきながら、ソファに座ってケータイの画面を見ると、女からの着信が来ててギクッとした。
頭を掻きながら、示された番号に電話を掛ける。
「悪ぃ、ごめんな」
通話が繋がると同時に、素直に謝ると、女はちょっと拗ねたような声で『もうー』と短く文句を言った。
取り敢えず、プンプンに怒ってるって訳じゃなさそうで安心した。
女ってのは大体、どの客も面倒臭ぇ。
怒ってると、余計に面倒臭ぇ。
ある程度は仕事だし、機嫌も取るけど、それでも限度ってモンがある。その点、ちょっと拗ねられるだけで済むなら、楽だと思った。
「ゴメンな、昨日。楽しみにしてたのにな」
反省してる風に聞こえるよう、声のトーンを若干落とす。
ミーティングだ何だ言って、ドタキャンすることもあるけど、今回みたいに酔い潰れてたってのは初めてで、多少は罪悪感もある。
次に来たときは、いつもより2割増しで甘やかしてやるか。そう思いながら、もっかい「悪かった」と謝った時――。
『いいよぉ、もう。酔い潰れたんだって?』
気遣わしげにそんなことを言われて、ドキッとした。
『リオン君だっけ、新人のあの子から電話貰ったよー』
電話口でくすくす笑われて、「はあ……?」と間抜けな声を上げる。
『案外気が利くじゃん。お礼言っときなよ?』
リオンを誉める客の言葉に、ゆっくりと血の気が引いた。
何も覚えてねぇ。目の前に本人もいねぇ。
うわの空で通話を切ると、間もなくドタドタと階段を降りる音が響いた。
「おっはよー!」
能天気な声を上げ、リビングのドアを開けたのは悠汰、で。その後ろにリオンがいんのも見えて、思わずガタッと立ち上がった。
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