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家庭訪問②
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優馬の家はアパートだった。
菊池はアパートの駐車場の空きスペースに車を停め、背広を整えると鞄を持って出た。
優馬もそれについていく。
「神崎」の表札がつけられたドアで呼び鈴を鳴らすと、「はーい」と男の子の返事が聞こえ、ドアが開くと優馬によく似た男の子が二人を迎えた。
「兄ちゃん!おかえり〜」
「ただいま」
優馬は弟の姿を菊池に見られたことに居心地の悪さを感じたが、悟られぬよう普段通り返事をした。
弟の後ろから母親が姿を見せた。
「ハル!先生がいらっしゃっているから部屋に戻ってて」
優馬の弟、春馬が玄関から離れると母親が挨拶した。
「先生、わざわざ送ってくださってすみません!一人で帰らせてもよかったのに…」
「いえ、こんなに頑張っている優馬君に何かあったらいけませんので。今年は卒業試験が控えているので、優馬君も気合が入っていますね」
それから他愛もない謙遜とお世辞の会話が行き交ったあと、菊池がある提案をしだした。
「こんなに遅くまで毎日勉強されるのでしたら、中学部で行なっている夏合宿に参加されてはいかがですか?」
「え、合宿…ですか?それはちょっと…」
戸惑う母親に、菊池は更に言葉を続けた。
「ご存知の通り、卒業試験は中学入試と同様の内容で、外部受験の生徒も含めて首位を取らなければ最優秀生としての学費免除までは行けません。この試験が要です」
菊池は鞄からプリントを取り出した。
『中学部夏期合宿のご案内』とある。きっとそれ自体は本物だろう。
「中学部の合宿はもう始まっています。優馬君は小学生ですが、そこに特別に途中参加することになります。費用はかかりません。もちろん、お母様のご了承と優馬くんの希望があればの話ですので、ご家族で話し合われてから私までご連絡ください」
優馬は、スラスラとよくも口が回るな、と感心と呆れ混じりに聞いていた。
母親を騙しているのは後ろめたいが、小学生が長期間泊まりに行くとなればこの説明が一番腑に落ちる内容で、口の挟みようがなかった。
「そう…優馬は行きたい?」
自分に話を振られてギクリとしたが、菊池の顔色を確認するのも怖くて母親に笑顔を見せ、「うん、行きたい」と口裏を合わせた。
「それでは、ご連絡をお待ちしています。では」
菊池は優馬の家を後にして、優馬は家に帰って行った。
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