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童 2
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「組ちょ…」
「すぐに医者を呼べ。
…それから、千景。澄和を運んでやれ」
的確に素早く指示を出す組長。
澄和の髪をかきあげて額を撫でるその姿は、流石としか言いようのない人格者のそれだった。
「しっかりするんだ」
一瞬怯んだ俺を見透かしたかのように組長が俺を一瞥し放った一言。
弾かれるように俺だけでなく全員が動き出す。
澄和の小さい身体を抱き、部屋まで運んだ。
診察など早々に終わって、澄和の笑顔が見れる。
…そう、思っていた。
部屋の前で待っていると、組長がシーツに包まれた澄和を抱いて出てきた。
澄和はすやすやと眠ってはいたけどその顔色はシーツに負けないくらい白くて、胸には不安な予感がすきま風のように吹き込んでくる。
「今から病院に向かう。お前も来なさい」
…病院?なぜ?
ただの過呼吸で病院なんて行くのはおかしいだろ。
柊の家は極道。
変なリスクを侵さない為に闇医者の病院にさえ直接行くことは少なく、今まで治療、時には手術だって医者を呼んで屋敷内で行ってきた。
それなのに。
思い当たる節は一つだけ。
何か特別な機器を必要とする検査、それしかありえない。
澄和に何の検査が必要なんだ?
確かに身体は標準よりも華奢だけど、今まで大きい怪我や病気もせず生きてきたのに。
なぜ、なぜ。
不安と疑問だけが頭の中をぐるぐると渦巻いた。
そして。
検査を終えた医者、組長と俺。
3人きりの部屋で医師が口を開いた。
「今回行った検査の結果をお伝えします。
…誠に残念なことに、今回の柊 澄和さんの呼吸困難はただの過呼吸ではありません。
お父様のご希望により、率直に申し上げますと
…っ澄和さんは療養や生活面での様々な規制が必要です。
病名は、…… 」
頭が真っ白になるってこういうことだ、と思った。
それでいて、もう一人の自分が自分を見ているかのように、俺は怖いくらい冷静だった。
澄和が、俺の従者になることはない。
揺るぎないその事実が重く俺にのしかかった。
その日、屋敷の縁側から見た月は黒い布のような雲に巻き込まれていて。
それ以上その景色を見たくなく、今日起きたことを信じたくもなく。
全てから逃げるように澄和の部屋で眠ろうとしたけどそれさえできなくて、病院で独りぼっちで寝ている澄和を想いながらただただぼーっとしたまま世が明けるのを待った。
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