アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
指輪の意味
-
「春ちゃん、大事にしなさい。
これは愛よ。伝えられない愛の代わりになってくれるわ。」
あの指輪は母さんが
しゃがみ込んで俺の頭を撫でながら
そう言って、5歳の誕生日に渡してくれたもの。
その時のことは、鮮明に覚えてはいないが
そういった、母さんの瞳は悲しげに揺れていたのを今でも覚えている。
そして、俺は_______。
10年もの長い間、肌見放さずに身につけていたその指輪をなくした。
「ない、ない_____っ、ない!」
今日歩いた場所を。
今日行った場所を。
全て探して回った。
部屋の中、教室、中庭と思い当たる所を全て探した。
だけど、指輪は見つからなかった。
何処をどう探しても。
その場に蹲り、指輪だけがない
そのチェーンをぎゅっと握り込んだ。
言いようもない不安だけが
押し寄せる。
ポツリ、ポツリと降り出した
雨にも気づかずに
中庭にずっと蹲っていた。
「……何で、ないんだっ。」
アレは俺にとって1番大切なもの。
俺が、何も知らなかった頃の
幸せな記憶の全て。
父を父さんと呼べ
母を母さんと素直に呼べた頃の全てだった。
今となってはもう、呼べはしない。
呼べる資格なんて俺にはなかったと知ってしまった時から。
「こんな所で何してるの。」
上から降り注がれた声。
その声の主が差し出した傘の影と一緒に差し込まれた言葉は、柔らかくふんわりとしていた。
そしてその言葉をかけたのは仄かな甘い香りが漂うような
そんな人だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 195