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傾城2
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まだ、桜を見ていくと言った宵(よい)と別れてから
降り始めた昨夜の土砂降りが嘘のように晴れた次の日
すっかり桜は散りきり、新緑の季節がやってきていた。
そして
長めの休みを終えた為か、憂鬱とした空気を帯びていた
学園の空気が変わったのは昼休みも終わりの頃だった。
昼休みに鳴川さんに捕まった為
本鈴が鳴るギリギリに教室に着いたものの
教室内の雰囲気は静寂そのものではあったのだが
いつもと違う異質な存在が教卓の上にちょこんと座っていたのだが、何故か教室にいる矢井島との間に不穏な空気が流れていた。
「ねぇ!………れんじと幼馴染だったんでしょ?!噂で聞いたんだぁー!!答えてよ!!!………………ねぇってば!!!」
よく言えば溌剌としていて、悪く言えば金切り声で騒ぎ立てるような声ににこにこ顔が常の矢井島があからさまに不快な表情を浮かべていた。
「僕は、教室に戻らないと駄目だから離してください」
「何で、何で?!」
何で矢井島がこのクラスにいるのか疑問だったが
矢井島の発した言葉で合点がいった。
教卓の上にいる生徒に腕を掴まれていて教室から出られないらしかった。
「………あ、もしかして前に変な事聞いたけど。それと関係してるの?!………ほら、れんじの______。」
「そんなことより、朱門くんはクラスに戻らなくていいの?」
「うん!!だって、もうすぐ来るんだってさ!!!」
「何が………?」
「うんとね、救世主(ヒーロー)が来るんだよ?!」
「救世主(ヒーロー)?」
「………偽物なんかじゃなくて本物の救世主(ヒーロー)、なんだって!!!」
教卓の上の生徒に、教室内の全員が理解できないと
頭をひねっているとこちらに気づいた生徒が矢井島を掴んでいた手を離しビッと俺に向かって指をさした。
「あ!………Cマイナスだ!」
矢井島も教室にいたクラスメイトとも一斉に俺へと
視線を向ける。
その生徒の発したCマイナスの単語に引っかかっている生徒は少なくないはずだ。俺もそのうちの一人であった。
「ねぇ、この段階でCマイナスって凄いんだって!中々いないって言ってた!!」
嬉々として発するその生徒の言葉に教室内のある生徒から
言葉が飛んだ。
「いつまでここにいるつもりなんだ?朱門すずめ。Cマイナスだがなんだか知らないが自分のクラスに戻ったほうが利口な選択だと思うが………わからないか?」
その生徒の鋭利な言葉に気分を害したのか
口を尖らせてあからさまにその生徒から視線を外すと、朱門すずめと呼ばれた生徒は俺へと駆け寄ってきた。
「ねぇ、救世主(ヒーロー)が今日ここに来るんだって!!だからさ、偽物はもういらないよね?!!」
わざとなのさそうじゃないのか
言外に含まれた圧を感じていると、背中から間延びした声が飛んできた。
「あんた達、こんな所で突っ立ってないで席に座りなさいよ___って、美音ちゃんにすずめちゃんも早くクラスに戻らないと、怒られちゃうわよ」
「ねぇ、恋ちゃん。どこどこどこ?!!救世主(ヒーロー)いるんでしょ?このクラスじゃあないの!!」
「救世主(ヒーロー)?………何の話?」
「だって、龍が言ってたんだよ!!何で知らないんだよ!!………ねぇ、来ないの?!」
桜崎先生が困ったように首を捻りながらも
会話しようとしているが、朱門すずめは聞く耳も持たずに何でと連呼するだけで会話になっていない。
【うるさい】
「………誰っ_____!」
教室から誰かのボソリと呟いた声が朱門すずめに届いたのか桜崎先生から視線を外して鋭い目つきで声のした方へと睨みつける。
「誰なんだよ!」
教室内どころか廊下にまで響く声で叫んだかと思えば
みるみるうちに、目に涙を溜めて今にも溢れ出しそうだった。
「すずめちゃん_____。」
桜崎先生が俺の横を通り抜けて、朱門すずめの目線に合わせてしゃがみこんでいるのを眺めていたら、誰かに裾をスッと引かれた。
「………あの、すいません。職員室ってどこにあるのか教えてもらえますか。迷っちゃって。」
「____え」
「………………あれ________?あおいくん?」
突然の出来事に職員室の場所も教えられずにいると
宵(よい)が教室の中の雰囲気に気づいて首を傾けたかと思うと、俺の前を横切っていった。
宵(よい)が何の躊躇もなく未だに金切り声をあげ続ける朱門の前に引き寄せられるように自然 に立つと
宵は誰もが彼の虜になってしまうようなそんな笑みを見せた。
「初めまして」
「………は、じめまし_____て?」
朱門すずめは頭を傾げて目に溜まった涙を拭いながら答えた。
「そのすずめ、可愛いね。好きなの?」
「………………うん。好き」
「触ってもいい?」
「うん」
朱門すずめがずっと腕の中に抱いていたぬいぐるみの頭をそっと撫でる。
「わぁ、ふわふわだね!」
「うん!すーちゃんっていうの。」
「可愛い名前だね。すーちゃん?______あ、笑った」
手のつけられなかった朱門すずめが自然と笑みをこぼした。
「へ?………笑った?すーちゃんが?」
「ふふっ。違うよ。………君は泣くより、笑ってる方がいいって。すーちゃんも思ってるよ。きっと」
「すずめっていうの。」
「………え?」
「______名前、すずめっていうの。」
「そっか。じゃあ、すずめって呼ぶね。……あ、僕も自己紹介しないとだよね?今日から、色々とお世話になると思います。僕は、宵_______西方宵____っていいます。」
突然現れた見知らぬ宵(よい)の姿に、全員がその挙動を見つめていた_____いや、奪われてしまっていたのだ。彼によって。
【西方 宵】
それが、彼の名前だった。
『西方………って_______。』
『燐さんの?』
静まり返っていた教室で、誰かが呟いた。
すると、朱門すずめと話していた西方宵は
くるりと振り返って教室内の全員、そして、いつの間にやらこの騒ぎに集まってきていた教室の外から覗く無数の視線、一つ一つ全てに合わせるようにじっと見つめてから告げた。
「初めまして、挨拶が遅れてすいません。今日から、転入してきた西方宵と言います。_______どうぞ、よろしくお願いします。」
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