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箸休めss-ⅲ
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「ねぇ、乙常くん。僕はもう少し早く始めれば良かったと思うのだけど、君はどう思う?」
「まったく同感だ」
二人はしゃがみこんで、自分の下にある小さな火の玉が弾ける様を見ていた。
もうそろそろしないかと提案したのは乙常だったのだが、想像以上に量があった。
複数本纏めてすればいいと思うのだが、眞戸は手一本につき一本だけだと言って、一度に消費できる線香花火は二本だった。もうかれこれ三十分はこの状態が続いている。
大の大人が二人、店の前で丸まって線香花火をしているなんて滅多に見られない光景である。
利根は一体どれだけの量の花火を買ったのかと内心思いながら、乙常は火の落ちた線香花火をバケツに入れて、新たな二本に火をつけた。
「なぁ、どうして俺なんだ?」
「ん?」
「花火なんだから、もっと他の奴とすれば良かっただろう?」
甥っ子とか、と乙常は続けると、大きく弾け出したオレンジの火を見つめた。
これを無くす方法なんて、他にもあったはずだ。眞戸の姉の家族にあげてしまうでもいいし、花火がしたいならしたい分だけ取って譲ってしまえばいい。わざわざ自分で全て消費する必要もないわけだ。
眞戸は花火を取り替えて、うーんと唸る。
「そうだなぁ。君としたかっただけなんだって言ったら、怒るかい?」
「いや、怒りはしないが…」
「僕にはそれ以外思いつかないんだ。君とできるなら種類も量も、どうでもよくて」
眞戸はごめんと謝るが、乙常は純粋に自分としたかったのだと言われてしまって、照れのようなものを感じていた。
男に言われて喜ぶなど、おかしい気はしたのだが、素直に嬉しいものは嬉しいのだ。もうこれは責任を取ってもらうしかないと思い、その考えに乙常は笑った。
「いい、別に。どうせ暇だし、こういうのも悪くない」
「そうか。ありがとう」
どうせ家にいても、する事など無い。感謝されるような事でも無いのだが。
どこか遠くで花火の音がする。乙常が思い出したように声を上げると、眞戸は驚いて両手に持った線香花火の火を落としていた。
「今日近所で祭り、やってたな」
「えぇっ!それは行かなくて良かったのかい?」
「いや、行く相手もいないし、一人で行っても虚しいから。これでいい」
眞戸は新しい線香花火を両手に、くすくすと笑った。
「そう。…もう飽きたって言うくらい火遊びしようね」
「火遊びって言うな」
「いいじゃない。もう情緒なんてもの、僕達には無いんだから」
「まぁ、そうだな」
二人は目を合わせて、肩を震わせて笑った。
今度は乙常の火が落ちたのは、言うまでも無い。
遠くでは空に、Panduleの店先ではもっとずっと低く、夏の花が咲いていた。
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