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仕事が終わる頃に、猛は店にやってきた。
「こんばんはー」
「あら猛君、圭吾君をお迎えに来たの?」
「そうそう」猛は頷き、それから苦笑いする。「内緒話、さっき圭吾にばらしちゃったよ」
「ふふ、あなた、嘘がつけなさそうだものね」立山は笑う。
圭吾は黒いロングエプロンを脱いで、棚の中にしまった。
「もう終わるから」
「急がなくてもいいよ。立山さんと話してるから」
店の奥の、休憩室として使っている部屋から拓也が出てきた。
「タケちゃん、僕とも話そうか」
「げっ。おまえとする話なんかないし!」猛は顔をぐしゃりと顰める。
「ふたりはお祭りに行くのよ」
立山が言えば、拓也は唇を尖らせた。
「ずるい。ずるいよ。僕も行きたい!」
「こ、と、わ、る! 何が楽しくておまえと一緒せんといかんのだ」
「え、僕、楽しいでしょ? 存在してるだけで楽しいでしょ?」
拓也が猛の背中に抱きついた。
「仲がいいね」じゃれ合うようなやり取りに笑みが浮かぶ。
「よくない。よくないから! 妙な誤解はすんなよ!」猛がぶんぶんと、扇風機のように首を振る。
「妙な誤解?」
拓也が大きな声で笑う。
「誤解してくれって言ってるようなもんだよ、それ」
猛の顔つきが、珍しく険しさを帯びた。
「もういい? ほら、行こう」
手を取られるまま店を出た。アーケード内の店は次々とシャッターを下ろしている。
「お疲れ様の挨拶もしていなかったのに」
「いいって。まったく、拓也、あの野郎め」
「付き合いは長いの?」
「おまえほどではないさ」
そう、と圭吾は返事をした。手を繋いでいるような状態に恥ずかしくなる。
「手、あの、離して」
「あっ、ごめん。いや、変なことを考えていたわけじゃあないから!」
「変なこと?」
「はは、今日、俺ちょっとおかしいんだ」笑顔が微かに歪んでいる。
「屋台、楽しみだね」圭吾は意識して話題を変えた。
アーケードを抜けたら、見える町並みが夕日に赤く染まっていた。
並んで歩くと歩幅の違いによりこちらが遅れてしまうはずなのに、猛はいつも合わせてくれる。
他愛無い話をしているうちに、鳥居が見えてきた。そこまで来ると人も増えていて、誰かとぶつからないように気をつけながら歩いていたら、猛に腕を掴まれた。
「危ないから」
「でも、男ふたりが手を繋いで歩くっていうのは、ちょっと恥ずかしいかな」
「恥ずかしくないし、恥ずかしいことをしているわけじゃあないよ」猛は微笑した。
圭吾は鳥居の前で一礼した。
「ん? 何で?」
「おじゃまします、みたいなものかな。人の家に入る時に挨拶するよね。それだよ」
猛は、へぇ、と言うと、圭吾を真似るように一礼した。
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