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秋の夜、月の影
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「お疲れ様、月野くん。」
今日の相手だった男が、そう言って馴れ馴れしく傍に寄ってくる。
「よかったら、この後どうかな。食事でも。」
俺は辟易しながらも、綺麗に笑顔をつくった。
「すみません、今夜は用事があって。」
仕事の相手と、まともな関係を築く気などない。まともな、仕事ではないのだから。
「そうか、残念だなぁ。」
「俺もです。また機会があれば、是非。」
心にも無いことを言って、さっさとその場を後にした。一応、寂しそうな顔はしておいたので、それで十分だろう。
やっと帰れる、とため息をついて、出口への廊下へ差し掛かったときだった。
「お疲れ、月野。」
声をかけてきた相手を認識して、思わず眉間にシワがよる。
「……お疲れ様です、鈴原さん。」
敢えてよそよそしく挨拶をし、その男の横を通り過ぎようとした。が、腕を掴まれ止められる。
「秋史さんって呼んでって言ったじゃん。」
そうのたまう相手を、嫌悪感も顕な表情で見返した。
「…はなせよ。」
いつもは猫を被って仕事相手には媚を売る。だが生憎と、この男には媚びても意味がない。意味がない相手に媚びるのも、謙るのも御免だ。
「はは、随分と嫌われてんな。そんな怒るなって。」
「うっせーな。早く帰りてぇんだからはなせ。クソが」
「ほんと、猫かぶってないと口悪いよね。」
にやりと笑った秋史にぐいと引き寄せられて、耳元に口を寄せられる。
「もうちょっと、口のきき方に気をつけたら?仮にも俺に弱み握られてるんだからさ。なぁ、月野。」
「……っ…」
再び少し離れて、俺の顔をのぞき込んでくる。
「それで?秋史さんて、呼べって言ったのは忘れたの?」
にやにやと問う秋史に、その顔面を殴り飛ばしたい衝動に駆られながら、俺は目をそらした。
「……何なんだよ…クソッ。」
「はー、ほんっと気が強いな。まあ、だから面白いんだけどさ。」
楽しませてやる気など全くないのに、それでもこの男にいいように遊ばれてしまって、俺は顔を歪めた。
「この後、暇?俺のために時間空けてくれた?誘い断ってたもんね。」
「お前のためじゃねぇ。」
「暇なんだ。じゃあ、ホテルと俺の部屋、どっちがいい?」
ギロリと秋史を睨んだ。何をされるかなど、言われなくても分かるし、引き止められた時点で察してはいた。それでもやっぱり頭にくるから、俺は答えずに掴まれていた手を払った。
「なぁ。どっちかって聞いてんだけど。」
俺の行動に少しイラついたのか、秋史の目が一瞬冷める。
ため息をついて、答えた。
「……ホテル」
俺は、この男に秘密を握られている。本当は、俺がαであることを。
「ケチ。」
「はぁ?」
拗ねたように言う秋史に、今度は俺が冷めた視線を送る。
「そろそろ俺のお家に来てくれてもいいんじゃない?」
意味がわからない。うざい。
「……帰りてぇ…」
「出てるよ本音。」
そう言って苦笑しながら、秋史は俺の手を引いた。
「じゃ、行こうか。」
苦笑から楽しそうな笑いに変わったその表情を見て、俺はギリと歯を食いしめた。
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