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そんなわけで、ぎゃあぎゃあ中。
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「最近、昼休みは図書室で過ごしてるから」とか何やらぼそぼそ言っていた沢井と別れ、教室に戻ることにした俺の足取りは、なんだかふわふわしてる。
沢井がくれたプリンがぬるくならないうちに、なるべく早く教室に戻らないと。
陽の当たらない廊下はひんやりしていて、沢井のせいで急上昇した体温をぐんぐん下げていくのに······まいった。
沢井が、頭の中から離れてくれない。
ほんとはあの時──もう少し一緒に居たいなとか、思ってしまったなんて。
沢井の、あの笑顔······あれは、結構効いた。
だって考えてもみろって。ついこの間まで、声すらまともに聴いたことの無い、スカした野郎だな気に入らねーとか思ってた沢井の──。
困って泣き出しそうな顔と、恥ずかしくて真っ赤になった顔と······優しく微笑む顔と。
全部、俺の知らなかった、沢井。
ノートをまとめるのが趣味で、プリンを笑いのネタに使う奴で、優しくて、思いやりがあって······なんでなの。
他人に興味が無かったんじゃねぇの?
俺達みたいなのを見下してたんじゃなかったのかよ?
知りたい、もっと。
いろんな沢井を知りたい。見たい。
何考えてんの。
どうしたらいい?
どうしたら、また──笑ってくれんの。
「おう!おかえりー······て、あれ?渉、今日そんだけ?牛丼とカレーは?」
教室に戻った俺の姿を見るなり、市川が不思議そうに声を掛けてきた。
切なそうに腹をさすりながら、俺はわざとらしい大きなため息をつく。
「ん、······ちょっと今日は食欲ねぇや」
「牛丼とカレーも異常だけどな」
市川の鋭い突っ込みに、周りの奴らも笑った。
ほんと、異常、俺もそう思う。
牛丼とカレーと······自分の昼メシ分を抱える沢井の、その姿を想像して大変だよな、とか不安になってパンにしちゃったりする俺って。
それで結局わざわざ迎えに行ってんだから世話ねぇよ。
相変わらず俺は、昼休みのたびにこうやって輪になって、ぎゃあぎゃあと親睦を深めるバカ連中の一員で。
相変わらず、その中心となる市川くんと大の仲良しなんだよな、めんどくせー。
まぁ、こんな奴でもイイとこがあるから一緒にいるんだろうけどさ······ちょっと今すぐはイイとこ思い浮かばないけどさ。
「え、なにそのプリン、買ったの?」
机に並べられた俺の昼メシの中から、甘い物は別腹な女子が小馬鹿にしつつも目を光らせて指差した。
「や······沢井が、くれた」
自分で言ったその名前になぜか反応して、なんとなく恥ずかしくなる俺。
「沢井?あぁ······そういや最近、お前よく沢井と話してるよなー」
半笑ったような顔で視線をこちらに向ける市川にイラッとした俺は、それを無視して焼きそばパンの入ったパッケージ袋を雑に開けた。
ただでさえ目つきの悪いお前にそういう顔されると、ほんと気分が悪いね。いつか注意してやろうと思う。
「あー······醤油こぼれたんだけどー!誰かティッシュ持ってない?」
「ねぇ、プリンちょーだい」
「絶対やんねー」
「沢井なぁ······あいつ、頭だけはいいからなぁ。そういや、そろそろ中間テストか」
なんて自由な会話だよ。
そんな事を考えつつ、俺は焼きそばパンを頬張ると、その口の中に広がる衝撃に目を見開いた。
焼きそばパン、うま。
「そうだ!ついでに俺も沢井と仲良くなってさ、今度一緒に勉強教えてもら」
「だめ」
その一言で、一斉に会話がピタリと止まった。
遮った声の鋭さに、市川は驚いた様子で俺を見てるけど、何が驚いたって······俺自身。
思わず出たその言葉に、正直引くわ。
「いや······沢井、大して面白くないし、てか別に俺、沢井と仲が良いわけじゃねぇし」
とか言って、残りの焼きそばパンを口に押し込みながら適当に取り繕ったけど、実はおかしな意味で、焦ってる。
問題なのは『やべ、変なこと口走った』ってことじゃなくて──このイライラ。
市川のやろうが、あんな事言うから。
その一瞬で浮かんだ、俺じゃない誰かと沢井が楽しそうに仲睦まじく笑い合う······イメージ画。
無い。嫌。絶対、ムリ。
“一人占めしたい”
そう、思ってしまった。
俺の知らない沢井を、俺の知らないところで、俺以外の誰かに見せてほしくない──なんて。
ちょっと······いよいよ、笑えなくないか?
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