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BL Land「2014 Valentine」Tour{増刊特集}
憂鬱なクーベルチュール⑥
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駅に着くと、柱の影にもたれるようにして立っている加賀美の姿がすぐに目に飛び込んで来る。
私服姿を見るのは二度目だ。
クールグレーのジップアップパーカの下からは黒のクルーネックが覗き、膝の動きに沿ってくしゃついたクロップドジーンズの裾からはふくらはぎのラインと踝が露出している。
首も二の腕も日焼けして、膝下とは明らかに肌色が違っているのが妙に艶かしく見えてどきりとする。
そして、落とされていた瞼がすいっと上がり、視線が合う。
「………」
半開きになった唇はそのままの形で止まってしまう。きっと間抜けな顔をしている。
でも、一度捕らえた姿から目を離すことは出来なくなってしまった。
加賀美との距離は2メートル。そして視線を外さないまま目の前を通り過ぎ、改札を指差し促される。
「…花火、行こう。電車乗るから」
「え?う、うん…」
そうか。やけにうちわや扇子を手にした友達連れや浴衣姿の女性が多いと思ったら、今日は河川敷の花火大会…。
精悍に日焼けした目線のすぐ先にある顎のラインに見惚れながら、窮屈な満員電車での時間を過ごして人の群れの流れにひたすら飲み込まれないよう追いかける。
高架橋と渡り、河川敷へと降り延々と続く夜店の前は立ち止まる人と行き交う人とが入り乱れ熱気がすごい。
「何か食う?」
「か、加賀美は?」
「俺は食べてきた。腹減ってる?」
「ううん、全然」
っていうか、緊張しすぎて何も喉を通らないよ。
「じゃあ、あれにしよう」
黄色に赤・青・緑・オレンジ…色とりどりのケースに入った蜜が、吊るされた電球の光を受けきらきらと光り”蜜掛け放題”の小さなプラカードが貼られている。
どの店も人だかりがすごく、氷屋にも10分程は並んだのだろうか。
どれにする?と視線で問われたので、コレ。と黄色を指さし、加賀美はみぞれを選んで一緒に買ってくれた。
川べりとは反対側、夜店が立ち並ぶ遊歩道から少し外れるとロープが貼ってあり、店の裏側へと回るとようやく人の流れから開放される。
先が割れたストローで氷をすくう。空に爆ぜる花はゆったりと一定の間を置き、咲く瞬間の音だけを残して消えていく。
打ち上げ場は川の真ん中に設置されその対岸同士がアリーナ席になっているが、今いる河川敷はその場所からは少し遠い。
頭上高くに打ち上げられる花火は近すぎて、首が痛くなるのでずっと見上げてばかりもいられない。
漆黒の川面に赤や白、緑とわずかな色を乗せては揺らぎ煌くさざなみをふたりで飽きることもなく眺めながら、溶け出す氷を口に運んだ。
魅了される美しさ。そしていつかは終わってしまう儚さ。近づきすぎて見えない。一定の間を置いてぽそり、と心を揺れ乱す声音。
自分にとっては側にいるこの男こそが花火のようだ、と日常から切り離された時間の中でいつまでも花の咲く音を聞いていたいと思った。
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