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その日の夜。命令通りに茶を淹れてきた俺は、椅子に座っている賢斗の前にカップを置いた。
「ずいぶんしけた面してんな。そんなに疲れたか?」
気遣っているのか馬鹿にしてるのか、賢斗は俺の頬を撫でてきた。俺はそれを勢いよく振り払って睨みつける。
「うるせえ!さっさと飲め!」
「わー、ご機嫌斜めだこと。お前さぁ、二人きりのときはそれでも良いけど、他に人がいるときはちゃんと敬語使えよ?じゃないとお家に帰れないぞー」
「......っ。どうせ誰も俺のことなんか待ってねえよ!」
「はぁ?お前ほんとどうしたんだよ?」
賢斗はどうやら家の者に好かれてるみたいだが、俺は違う。俺を待ってるやつなんているわけない。きっと今頃清々してるやつばっかだ。
「なんだよ。掃除できなかったのがそんなに悔しいのか?」
「......っ。何で知って......瑞希か!」
「そうだけど、だからって瑞希虐めんなよ?俺が無理やり言わせたんだから」
「虐めねえよ!」
瑞希には今日一日だけでずいぶん世話になってしまった。いくら俺だって恩を仇で返すような人間じゃない。
「......あのさぁ」
賢斗は荒ぶる俺の目を見つめて、頭を掻きながら立ち上がる。
「初めてなんだから出来なくて当然だろ?ましてやお前はおぼっちゃんだったんだから。まぁ、お前昔から何でも出来たから意外っちゃ意外だけど」
その賢斗の言葉に俺の何かが切れた。
「......何が意外だよ」
「あ?なに?」
俺が呟けば聞き返してきた賢斗の部屋着の襟を掴んで、俺は大声をあげる。
「そうだよ!俺は普通のやつよりは何だって出来んだよ!けど、お前にはいっつも勝てなかった!!そんなお前が俺に『何でも出来た』!?ふざけんな!!お前はいつも俺を馬鹿にしてたじゃねえか!!」
「は?馬鹿になんか......」
「してたよ!『修弥に勝てても嬉しくない』って話してんの聞いたんだからな!!つまりは勝てて当然ってことだろ!?」
俺が中学二年生のとき、こいつがそう話しているのを聞いてしまったことがある。ぶっちゃけ周りの目なんてたいして気にしてなかったけど、本人にあんなことを言われてたなんてかなりショックだった。少なくとも音信不通になるくらいには。
「まさかお前、そんなことで俺を避けてたわけ?」
俺にとってはすごく重要なことだったのに、当の本人は目を瞬かせるだけ。その態度が気に食わなくて、俺は襟を掴んだ手の力をさらに強める。
「そんなことじゃねえ!!」
「あ、あれは違う意味で言ったんだって」
「じゃあ、どういう意味だよ!?」
「いやー......まあ......お前ともっと仲良くしたかったんだよ」
「............は?」
あまりに気の抜けた答えに俺は襟を離してしまう。解放された賢斗は首を押さえながら言葉を続けた。
「だってよ、ずっと『けんと、すごーい!』って懐いてたやつが、中学入ってからいきなり敵対視してきたんだぜ?何かといえば睨んでくるし、そんなん悲しいだろ」
「な、懐いてない!!」
「いーや、懐いてたね。いっつも俺の後ろ追っかけてきて、あの頃は可愛かったなー」
「......っ」
屈辱だ。あんな恥ずかしい時代のことは記憶から消し去りたい。
羞恥心から顔を俯けば、賢斗が俺の顎を持ち上げる。
「まぁ、これでお前が俺を避ける理由はなくなったわけだ。次に俺から逃げようとしたらただじゃおかねえから、覚悟しとけよ?」
誰をも従わせるような漆黒の瞳に、俺は不覚にも身動きが取れなくなる。そんな俺の様子を見て、賢斗は愉快そうに笑うのだった。
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