アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
38
-
「最近、あの誘拐のニュースやらなくなったね」
赤桐大学の敷地内にある学食の、その一角。
斉藤友里は、向かいに座る友人の繁田香織に向かって呟いた。
そして案の定、いつものように浮かない顔をしていた香織の顔が曇る。
「……そうだね」
「まだ探してるの? アレって、香織の元カレだっけ」
「……うん」
”元カレ”
そんな言葉だけでは言い表せない。
侑太郎は、小学一年生から高校まで、ずっと一緒の幼馴染だった。
元はとても、とても優しい人だった。しかし、それは高校で変わってしまった。
小中と「女みたい」だとからかわれ続けていたが、それが反動だったのかもしれない。それでも、あんな酷いイジメを許せる理由にはならなかった。恋い焦がれていた侑太郎の背中は、イジメが始まってからどんどん、汚く見えていった。「もう見たくない」と思ってしまうほどに。
だから別れた。
もう会いたくない。今までの思い出も全て忘れたいと思ったこともあった。侑太郎を見たくない。消えて欲しいと。
……だからって、神様、
ここまでしなくてもいいだろう。
何度も、何度も思った。
あの時、侑太郎と別れていなかったら、もしかしたら……。
「もうやめなよ。その元カレ、最低な奴だったんでしょ? 因果応報ってやつじゃん」
「……うん、そうかもね」
「それにほら、聞いたよぉ〜! サークルの後輩に告白されたんでしょ? 過去の男なんか忘れて、新しい恋始めるチャンス!」
「……うん」
警察でも、こんなに長期間探して見つからないのに、自分一人が動いたところでどうにもならないかもしれない。それでも、探さずにはいられなかった。
毎日ニュースにかじりついて、侑太郎の新情報を待つたびに、心臓が死にそうなくらい痛くなる。最悪な想像しかできない。死亡。死体の発見。そんな言葉を見るたびに、もしかして侑太郎じゃないのかと、怖くなって……。
「……はぁ…」
何を言っても上の空で返事をする香織に、友里は小さく溜息を吐く。
あの誘拐事件から、香織は笑わなくなった。いつも少しクールではあったが、友里が何を言っても、表面上の笑みしか浮かべない。
何か明るくて、面白い話題はないか。
そう思って、友里は携帯をいじりながら話題を探した。スケジュール帳で記憶を探っていると、ふと、あることを思い出す。
「……そういえばさぁ、この前バイトが夜だったんだけど、すんごいスタイルいいお客さんが来たんだよね」
大した話題ではない。しかし、なんとなく頭に残っていた。
「真っ黒のフード被ってさぁ、すんごい怪しげでチラッと見ちゃったの。顔はあんまり見えなかったけど、多分あの人イケメンだね」
足が長くて、モデルみたいだと思った。まぁ深夜に客をジロジロ見るのもあれだし、彼氏とメッセージのやり取りをしていたのであまり見れなかったが、それでも「かっこいい人なのだろう」と思えるような要素があった。
……いや、それだけじゃない。
何か、どこかで見たことがあるような気がしたのだ。
どこだっただろう……と考え始めると、突然香織が笑った。驚いて顔をあげる。
「顔見てないのに、イケメンなの?」
「……そりゃ、私くらいになると、背中だけでイケメンかどうかわかるのさ!」
そう言うと、香織はまた笑った。
しかし、それがまた表面上の笑みだったことに、友里は少しガッカリした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
38 / 85