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牛印の石鹸で煩悩を洗う-5(完)
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「合宿の時に何?」
「これ、言っちゃいけないやつでした。ごめんなさい、今の忘れてください」
忘れてくださいなんて言われて素直にはいそうですか、忘れますなんて馬鹿正直なやつは虎太郎ぐらいだろう。
さっき階下で夕飯をご馳走になった時に思ったけど、この実直さは絶対遺伝だ。
虎太郎のおじちゃんとおばちゃんも親切で明るくてめっちゃいい人だったから。
うちのメルヘンな両親が旅行から帰って来たらお菓子を作って貰って届けに来よう。
「で、合宿で何があったの?」
「言えません」
虎太郎は意外と強情で宥めてもすかしても口を開こうとしない。
強情さでは俺も負けてはいないから、ひとまず話を逸らして後で絶対に聞き出すことを心に誓った。
「てゆーか好きな人とか居たんだ」
「はい、俺の片想いですけど」
学校と道場と家が行動範囲の全てである虎太郎が好きな相手なんてどこで見つけてくるのか。
「沢井流の先輩です。俺が入門した時からずっとお慕いしてるんです」
「へ、へぇ」
沢井流って女子も居るんだっけ?
シロん家に泊まりに行った時に見た道場生は男子ばっかりだった。
どうせなら悠夜おじちゃんに恋してたらいいのに。
二人がくっついたら悠夜おじちゃんも俺にちょっかい掛けて来る事もなくなると思うし。
そんな事を考えているともう一つの可能性に行き着いた。
悠夜おじちゃんよりももっと虎太郎が好きになりそうな人がいた。
シロ!? まさかシロ?
虎太郎の想い人がシロだったら放ってはおくわけにはいかない。全力で阻止しなくては。
「年は? 何してる人」
「あ、あの、大学生ですけど」
よかったー。
シロは大学生じゃないし。
シロではないとわかって途端に全身の緊張が解れた。
そうすると目の前の色恋事とは縁遠そうな男の想いい人にに俄然興味が湧いてくる。
「写真とかないの?」
「あ……写真……ですか?」
「その顔は持ってるよね?」
「……はい」
逆らえないと悟ったのか虎太郎は机の引き出しから本の形をしたロケットキーホルダーを取り出してきた。
中に入っていた写真には、道着姿の綺麗な女の人が写っていた。
「へぇ、めっちゃ綺麗な人じゃん」
「す、すいませんっ」
「何あやまってんの?」
「その、何か俺みたいな顔が好きになっていい相手ではないというか……」
確かに虎太郎はお世辞にも「イケメン」とは言い難いけど、性格だけは極上だ。
「そう? 似合うと思うよ」
「そうですか!?」
笑顔になったかと思ったら急にモジモジし出す虎太郎を応援したくなった。
写真の女の人が締めている黒帯にはピンク色の糸で名前らしき文字が刺繍されている。
「ル……ミ?」
名前を音読しただけで顔から湯気を出しそうなほど照れている虎太郎が面白くて、あとちょっと羨ましい。
「さっさと告白して付き合っちゃいなよ」
「まだ駄目なんです」
「どういうこと?」
「俺が……五段になって支部長になったら告白するって決めてるんです」
支部長になったらって、それ告白じゃなくてプロポーズじゃないの?
という疑問は心の中に置いておいて。
「今何段?」
「三段です」
「五段まであと何年かかるの」
「早くて4年です」
「はぁ? そんなに? さっさと告っちゃいなよ」
「駄目です」
虎太郎は変なところで強情だけど、あと4年も片想いするなんて俺なら無理だ。
「じゃあ、告らなくていいからさっきの話の続き教えて」
「志朗兄さんに怒られますって」
「シロには言わないからいいよ、教えて」
このままじゃ気になって気になって絶対眠れない。
「絶対志朗兄さんに言わないでくれますか?」
「言わない言わない」
「その……」
虎太郎が必死に守ろうとしたシロの秘密は、シロが合宿中に何回「葵琉」って言うかの賭けだった。
ありえない!!
賭けるのは現金ではなく沢井流らしく健康的にトレーニング。
一番正解から遠かった人間が「葵琉」の数だけ腹筋だ。
「何それ! 何勝手に人の名前で賭けやっちゃってんの」
「すいません」
俺の知らない所でこんな事されてたなんて、恥ずかしすぎて沢井流の道場に足を踏み入れられない。
「で、何回だったの結局」
「108回です」
108回って……。
シロが俺の名前を呼んだその数の多さにもドン引いたけど、108回って……。
「……煩悩?」
「まさに煩悩ですねー。志朗兄さんにとって葵琉先輩はどんだけ修行を積んでも解脱できない煩悩なんだと思いますよ」
「お前は何回に賭けたの?」
「俺はカウント係りです。志朗兄さんにいつバレるかヒヤヒヤでしたよ」
(完)
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