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小鳥の夏休み15
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「「きゃーっ!小鳥ちゃん、アクアちゃん可愛いッ!」」
「はい、いちいち抱きつかない。」
自室で用意してもらった衣装に着替えリビングに戻るなり、双子が腕を広げて小鳥とアクアに駆け寄ってきた。
抱きつかれる寸前で、尊が小鳥を抱えあげ双子の行動を阻止する。
「「尊のケチー!」」
文句を言う双子をサラリと無視して、尊は小鳥をそっと床に降ろすと、うまく結べていなかった胸元のリボンを直してくれた。
「うん。よく似合ってる。」
小鳥の全身を確認するように眺めて、尊は満足そうに笑った。
小鳥の衣装は、シンプルな白いシャツに、襟元には深い緑のリボン。
リボンと同じ色のベストと膝までのズボンに紺色のソックスといった、全体的に昔の西洋を意識したような雰囲気のものだった。
アクアの衣装は、えんじ色をベースにしたエプロンドレスで、胸元には控えめな紺色のリボンが付いて、同じ色のリボンをカチューシャのように髪に結んでいた。
「二人ともお人形さんみた~い!思った通り、よく似合うわぁ~」
「チョットだけ丈調整するから動かないでね。」
ズボンの裾や袖を手早く調整して、改めて小鳥とアクアの全身をくまなく観察すると、双子は手を取り頷きあった。
どうやら納得のいく仕上がりになったようだ。
「はい、二人とも~こっち向いて?」
呼び掛けに反応して、アクアと揃って薫を見れば手には携帯が構えられていて。
パシャリ。と鳴った音に写真を撮られたのだと気付く。
「こらこら、勝手に撮るなよ。」
尊は人にはそう注意しつつ、自分自身は小鳥に向かって何度もシャッターをきっている。
「別に悪用はしないわよー。縁ちゃんに頼まれたのよ。」
「写メ送ってくれないなら自分も着いてくるってホテルでごねられたの!」
ね~っと綺麗に双子の抗議の声が重なる。
そうして慌ただしくも、衣装合わせは無事に終わった。
********
どうしてこんな事になったのか・・・・・
聖は、小鳥と二人で電車に揺られながら石の教会へと向かっていた。
石の教会は、地上が礼拝堂、地下が記念館になったオーガニック建築の教会で、人気の観光スポットだ。
石積みの通路や、石とガラスがアーチ状に組み立てられた空間が神秘的な雰囲気を漂わせる建物で、チルチルとミチルが旅する夢の国の1つとしてPVに使う。
今日は、他にも絵本の森美術館やエルツおもちゃ博物館など、夢の国のイメージに合う観光スポットをいくつかまわり撮影を行う予定だ。
撮影と同時に色々と観光も出来て一石二鳥だろうと尊が得意気に言っていた。
しかしながら、当の尊はこの場にいない。
ことの始まりは、数時間前に遡る。
尊は今日も縁の撮影の手伝いに行っていて、聖達他のメンバーは別荘で尊の帰りを待っていた。
尊が戻り次第、皆で石の教会に向かうはずだった。
しかし、機材の故障で縁の撮影が大幅に遅れるトラブルが発生した。
その結果、石の教会や他の観光地の開館時間の都合上、尊を待たずに別荘を出発しなければ間に合わなくなってしまったのだ。
幸い縁の撮影のトラブルは無事に解決して、撮影が終わって直接向かえば尊も当初の予定通りの時間に石の教会に着けるらしい。
だが、ここで問題が一つ。
石の教会へは車で向かうのだが、尊が居なければ小鳥は車に乗れない。
本人は何とかなると言ったが、尊が無理だと言い張った。
それでも、小鳥が大丈夫と言うのならばと一度は車に乗せてみたものの、出発もしないうちから真っ青でガタガタ震えて。
聖達もこれは無理だと意見が一致した。
結局、誰か一人付き添って小鳥は石の教会の最寄り駅まで電車で向かい、その駅に尊に車で迎えに来てもらうことで話しはまとまった。
一番運転なれしている事から皆を引率する運転手は助に決まる。
静は方向音痴なので付添人としては頼りない。
結果、聖が小鳥に付き添う事になった。
正直、二人きりにされるのは気まずい。
軽井沢での初日、小鳥にきつくあたってしまったからだ。
聖は、自立していない人間が嫌いだ。
尊に頼り、尊に甘え、尊がいなければ何も出来ないような小鳥が見ていてとても腹立たしかった。
それに、不本意ながら聖が一目おいている尊が、小鳥の言うことをほいほいときいてやっているのもとにかく気に入らなかった。
けれど、尊と話して自分の認識がずいぶんと誤っていた事がわかった。
注意深く見てみると、小鳥はちゃんと尊やその周囲の人間を気遣っている。
しかし、それが言葉や態度にほとんど出ない。というか、気遣い方がとても分かりにくいのだ。
甘えてばかりいると思っていた尊にさえ、いや、むしろ小鳥は一番に尊を気遣っている。
尊に甘えてばかりいるのも、尊が小鳥に手のかかる弟を望んでいるからで。
自分に求められている役割を理解して、小鳥はそれに忠実に応えている。
尊と小鳥について話して以降、清峰小鳥という人物は聖の目にはそんな風に写っていた。
全面的に否が自分にあったとまでは思わない。けれど、小鳥には悪いことをしたと思っている。
しっかり観察すれば小鳥がワガママなだけの子供でない事に気付けたはずで。
頭に血がのぼると一つの見方しかできなくなるのは聖の悪い癖だ。
とにもかくにも、小鳥に謝りたいと思ってはいるのだが、どうにもタイミングを逃している。
他人に関心が薄いからか、小鳥が聖の態度を気にしている素振りが全くないのでどう切り出して良いか分からないのだ。
しかし、せっかく二人きりになったのだからこの機会にさっさと謝ってしまおう。
「なぁ、小鳥…」
決意を固めて話しかけると、ちょうど電車が駅に停まり、開いたドアから人がなだれ込んでくる。
夏休みの影響か車内は込み合い、小柄な小鳥は人に流されて聖と少し距離が離れてしまった。
まずい…
聖は、小鳥から絶対に離れるなと尊に散々言われた。
しかし、こうも混んでいては次の駅に着くまではどうしようもない。
幸い、次の駅には5分程で着くはずだ。
その程度なら大丈夫だろうと、ドア付近に居る小鳥を見守っていたのだが・・・・・
ーーー嘘だろ!?
聖は、目の前の光景に、自分の認識の甘さを早々に痛感することになった。
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