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久しぶりの客
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部屋の扉を叩く音で露朱は目を覚ました。
中庭から自室へ戻り、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
扉を開けると、そこにいたのは津義だった。
「悪い、寝てたか?」
「少しだけ……どうしたの?」
「表に露朱を指名してる客が来てるんだけど、どうする?」
津義の言葉を聞いて、露朱はすぐにあの青年だと分かった。
「すぐに支度する。津義、手伝って」
露朱は迷わずにそう告げて部屋を出た。久しぶりの指名客だ。
休みだからといって断るはずがなかった。
いつになくやる気を見せる露朱を見て、津義は小さくため息をついて彼のあとを追った。
津義に手伝ってもらい大急ぎで準備を終えた露朱は、自室の前に立っていた。
準備をする間、客には先に部屋で待ってもらっていると告げて、津義は隣の待機部屋へと入っていった。
下子は上子が客をとっている間、何か問題が起きたときいつでも対応できるよう隣室で待機することになっている。
一つ息を吐いて、露朱は顔に客用の笑みを張りつけた。
扉を叩くと、中から小さな返事が聞こえた。
「失礼いたします」
部屋に入ると、そこにいたのはやはりあの壁の隙間から見えた青年であった。
寝具に座っていた青年は露朱の姿を見て慌てて立ち上がった。
露朱は閉めた扉の前で膝をつき、深々と頭を下げる。
「初めまして、露朱と申します。本日はご指名いただき、誠にありがとうございます」
「あ……」
露朱の言葉を聞いて青年は口を開きかけたが、顔を上げた露朱が人差し指を自分の口に当てるのを見て慌てて口を押さえた。
その様子を見て露朱がにっこりと笑うと、青年はすでに赤かった顔をさらに赤くした。
露朱は立ちあがり、風のように音も立てずに青年の側まで来ると、そっとその手を取った。
「どうぞ、座って」
そう青年をうながし、自分も青年と一緒に寝具へと座る。
「なんて呼んだらいい?名前言いたくなかったら、ご主人様って呼ぶけど……」
「ご主人様!?」
青年が突然大きな声を出したので、露朱は目を丸くした。
「あ、ごめん。……名前、筑紫(つくし)って言います。名前で呼んでもらえますか……?」
「わかった。筑紫、よろしくね」
「あ、よ、よろしく」
間近に見る筑紫の顔はあいかわらず真っ赤で、今にものぼせてしまいそうだなと露朱は思った。
「あ、ぼく敬語苦手なんだけど、気になる?気になるなら敬語で喋るようにするけど」
「あ!ううん!そのままで大丈夫だよ!」
再び部屋に筑紫の声が響き渡った。
彼は緊張で声の音量調節もままならないらしい。
露朱は目を細めて頭を軽く押さえた。
それを見て筑紫は小さく「ごめん……」と呟いていた。
「あの、ぼく、こういう……お店、は……初めてで……」
そうだろうなと露朱は思った。青年の様子は明らかに慣れていない。
「……お店どころか、その……そういうことも……初めてなんです……」
そう言うと、筑紫は深くうつむいてしまった。
そんな筑紫を露朱はほほえましく見つめた。
白椿に来る客はお金持ちの遊び慣れた大人ばかりで、筑紫のような客はとても珍しかった。
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