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お返し
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筑紫はこれまで店の中にいる露朱にしか会ったことがない。
男娼である彼は常に余裕と自信に満ち溢れているように、筑紫の目には映っていた。
こんなに不安そうな露朱を見るのは初めてだった。
「ごめんね、待った?」
「ううん。店からここまで、どのくらいかかるのか分からなくて、早く来すぎちゃったんだ」
「そうだったんだ。待ってるの疲れたでしょう?とりあえずどこかで休もうか」
筑紫はそう言って歩き出そうとしたが、露朱は立ち尽くしたままだった。
少しだけ低い位置から筑紫の顔を見つめている。
その表情は再びこわばってしまっていた。
筑紫はどうすればいいのか分からず露朱と同様に立ち尽くしてしまった。
露朱は少し視線を下げると、気まずそうに口を開いた。
「……ぼく、店の外に出るのこれが初めてなんだ。だから、どうしたらいいのか分からなくて……」
筑紫は、初めて白椿を訪れた時の自分の姿を見ているようだった。
初めての環境に放り込まれれば、誰だって不安になるのは当然のことである。
あの日不安でいっぱいだった自分を、露朱は優しく導いてくれた。
(今度はぼくの番だ)
筑紫は胸の内で決意して、できるだけ優しい声音で露朱に話しかけた。
「それじゃあ、今日はぼくがオススメの店に行ってもいいかな?」
筑紫の言葉を聞いた露朱はほっとした様子でうなずいた。
露朱の表情がやわらいだことに筑紫もほっとした。
「じゃあ、とりあえずご飯食べに行こうか……」
「あ、待って」
歩き出そうとしたところを呼びとめられて立ち止まる。
どうしたのだろうと振り返ったのと同時に、筑紫の指に露朱の指が絡められていた。
「手繋いでも良い?人が多くて迷子になりそう」
筑紫はめまいがした。
わざとやっているのかとも思ったが、おそらく無自覚に違いない。
(待ち合わせの時点でこれか……最後まで身がもつかな……)
沸騰しそうな頭でそう思いながら、筑紫は露朱の冷えた手を優しく握った。
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