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四十一。
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*
冬護の視界に飛び込んできたのは、赤だった。
コンクリートでできた床一面が、血である赤で染まっている。
その中心にいたのは、
ボロボロになった葵の姿だった。
彼の胸の中心には、ナイフが突き刺さっている。
彼の側には空になった注射器と気絶したトウヤが倒れていた。
葵にまだ意識があるのか、彼は朧げな目で冬護を見て口を開く。
「……とう、ご…さん……。」
「…っ、お前!!」
冬護が彼の元に駆け寄ろうとすると、葵は力一杯に叫んだ。
「来ないでください…っ…!」
彼の振り絞るような声で、冬護はピタリと動きを止めた。
「俺の周りには、無数の罠が張り巡らされています……。一歩近づけば、貴方も爆発に巻き込まれることになる……。」
そう言われて冬護が目を凝らすと、葵の周りに透明な糸が張り巡らされていることに気づいた。
まるで蜘蛛の巣のように、それは柱や壁、床一面に張られていた。
(……この罠の量……、全てこいつが仕掛けたのか……。)
ーーーーーー
ーーーー
ーーーー数十分前……。
「さようなら。」
ザクッッ
葵の胸の中心をトウヤのナイフが貫いた。
「……!!!」
「ふふ。このナイフはね、仲間に造ってもらった特別なものなんです。」
トウヤのナイフから、緑色の液体が僅かに流れている。
「持ち手のレバーを引けば、遅効性のある猛毒がこの刃に纏います。
効果に個人差がありますが、数グラム身体に摂取してしまえば24時間以内…確実に死にいたる恐ろしいものなんですよ。」
「……………。」
「このナイフの回数で言うと3回。3回斬りつけられてしまえば、もうアウトです。」
葵はすでに、トウヤのナイフを3回くらっていた。
腕に切り傷が一箇所。
頬に軽い切り傷が一箇所。
そして首筋に深い切り傷が一箇所だ。
「初期症状は意識朦朧、胸の痛み、吐き気、身体の麻痺など……。
ふふ、今の貴方そっくりだ。」
ボタボタと、葵の胸から血が溢れ出る。
「…………………。」
「おや。ショックすぎて、言葉も出ませんか?それとも、もう死んで喋れないとか?」
葵は自分の顔を覗き込むトウヤに笑った。
「………いや、まだ俺を殺してないのに随分と余裕だなと思ってな…。」
「……え?」
「俺にはな、最終手段っていうものがあるんだよ。」
ジャキッ
そう言って、葵は靴底からナイフを取り出す。
そしてそれを、自らの掌に貫通させた。
ザクッッ
「っ!!」
激しい痛みに、葵は顔歪める。
そして強い刺激により、麻痺した片手を動かせるようになった葵はスーツの裾から注射器を取り出す。
「っ、まずい!!!」
トウヤは葵と距離を置こうと、葵に刺さったナイフを引き抜こうとした。
だがその前に、葵が素早い動きでトウヤの首に針を突き刺す。
そして即効性のある睡眠薬を首に注入した。
「……っ、そんな状態で……まだ身体を動かせたなんて……。」
「俺を甘くみるなよ…少年。」
その瞬間、トウヤは薬の効果で気絶して地面に倒れてしまう。
葵は力尽きたようにため息を吐き、天井を仰いだ。
「……どうせ死ぬなら、お前が道連れだ。この建物は既に俺の罠で崩れることになっている……。
そうなれば、眠ったお前も潰れて死ぬことになる。」
葵は力尽きたようにため息を吐き、天井を仰いだ。
(慎太郎くん、冬護さん……。貴方たちはまだ生きていますよね。)
五体満足でいれば、あなた達はこの爆発から逃げ切ることができる。
建物が崩れる時間は遅い。
全速力で駆け抜ければすぐに外へと出れる。
建物が崩れたと同時に、
せめて目眩しにもなれば……。
葵がスイッチを押そうとした瞬間、冬護が目の前に現れた。
ーーーーーーそして今の状態に至る。
「冬護さん……。慎太郎くんは、まだ…生きていますか……?」
「……あぁ。重傷だが致命傷じゃない。アイツが動けないから、代わりに俺がお前を助けに来た。」
「そう、ですか……。よかった、慎太郎くん生きているんですね……。」
グッと彼は拳を握り締める。
(身体はもう動かない……。この手の中にある手紙も、彼に渡せない……。)
「……冬護さん……。俺を置いて、慎太郎くんと一緒に…名鳥様の元へ向かってください……。」
「!!!」
葵から血の気がどんどん失われていく。
彼の胸からは未だに血が流れ落ちていた。
「………俺の身体は、もう時間がありません。……この胸の傷と全身にまわった毒では、もう何も太刀打ちができない。」
葵の片手にはスイッチが握られていた。
彼はそれを見て、目を細める。
「それならせめて……俺はコイツを殺しておかなければ。」
「……………頭月。」
「……名鳥様の元に、コイツらは絶対に行かせない。」
冬護がそう言うと、葵は顔を上げた。
「さぁ、早く行ってください。」
ーーーそして、最後に彼は儚い笑顔で笑う。
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