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どうして?13 終
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◆◆◆
「しあわせそうに寝なくても良いのに……また僕より先に、君は眠ってしまうのかな?」
静かな寝息を立てて先ほどの行為で疲れ果てたのか、衝撃がありすぎて気絶してそのまま眠ってしまったのかも知れないヴィクトルを、優しく慈しむかのようにあの黒のロングコートを羽織って手袋のない手で静かに撫でる。
──アレクセイではなく、もう一つの名前(ランゼルト)として。
彼の眠りを妨げないように、ゆっくりとゆっくりと時間をかけてから。
赤く色づく唇に、触れるだけの口づけを落として。
「今の君はヴィクトルなのか……それともアキツシマなのか? その答えを知れるのは、君が目覚めた時だけなんて……残酷すぎてやっぱりまだ辛いよ、でも……それと同じぐらい嬉しいよ」と、心の叫びのような声音で彼が目覚めないギリギリのボリュームで吐き出しながら、ベットから立ち上がり。
遠い昔の自分がよく使っていた、研究室の本棚の前にまで進んで……。
埃がかなりかかった書物を数冊取り出してから、何の本なのかが分かるように書物のタイトルを指で拭えば。
『治療についての対策と対処032』という、今の世界から全て喪われた医術や治療魔術などを全て記した、誰もが欲しがる昔の僕が人々の為に想って書いた本だったので……。
「通りで、この世界に舞い戻ってみたら……こんなに遅れてる、いや原始にでも戻ったかのような医学、医術、治療魔術師しかない訳だ。誰も……誰一人としても、私のこの部屋に辿りつけなかったのか、実に嘆かわしい事だよ。でも……それも今日で終わる」
僕はそう強く言い放ってから、本棚から可愛い寝息を立てるヴィクトルの方に体を向けて。
「だって、僕のアキはちゃんとここに居るんだって……。確実的な答えが今日見えたから、僕の都合の良い妄想や、希望に縋りたくてみた幻想でもなく。あの時のままの君はあの頃の僕を想って、今も変わらず私を探してくれて居るのだから……」
──そうだから、僕は最も嫌う昔の自分を受け入れなければいけない。
嫌で嫌で仕方がない自分自身の駄目な所を、否定するのではなく。
それを受け入れるんだ、ランゼルトを探して彷徨うアキの為に。
僕もヴィクトルとアキのように、アレクセイとランゼルトとして生きよう。
──きっとこうすれば、ヴィクトルの悲願にも近づく筈さ。
だって君たちが探して居るのは、僕が否定し続けていた僕だったのだから。
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