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episode.88 本当の名前
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〜紘side〜
1月20日 13時半 フリーエンジェル
「すみません、お取り次ぎいただきたいのですが、赤津琉さんと木之本翔也さんはいらっしゃいますか?」
フリーエンジェルの隣は撮影スタジオ。そのため、仕事の合間なら事務所に俳優がいることもよくある。
琉と翔也のスケジュールは調査済みだった。
「どちら様ですか?」
「烏沢と言っていただければ。」
「少々お待ちください。」
しばらくその場で待っていると受付の人が戻ってきた。
「第5会議室に行ってください。」
受付はなぜ紘と千秋を通すのか不思議でならないのだろう、訝しげな目を向けてきた。
紘はそれを無視して第5会議室に向かう。
扉を開けるとすでに琉と翔也は座っていた。
「どうぞ、そちらにお掛け下さい。」
翔也がソファを指し示す。
「失礼します。」
「失礼します。」
紘と千秋は言われた通りそこに腰掛けた。
「……早速ですが、本題に入らせていただきたいと思います。この部屋に、防犯カメラや、音声の残せるものはありますか?」
「悪事が撮られるのが不安だってか?」
琉は冷たい声を出す。
(そう思うのも無理ないか……)
「いいえ。父上……烏沢俊蔵にこのことがバレることを防ぐためです。」
紘の言葉に琉も翔也は表情を変えた。
困惑しているようだった。
「……まあそういったものはない部屋を選んで指定したけど。」
翔也がそう答えたので、紘は話を続けることにした。
「俺は烏沢紘。青木哉太、璃子夫妻の事故の第1発見者であり、烏沢俊蔵の息子です。」
紘の言葉に琉は眉をひそめた。
それもそのはず、第1発見者の紘は嘘をついている。そのことは琉にもわかっているはずなのだから。
「……それで、何の御用ですか?」
何も言わない琉の代わりに翔也がそう言う。
「……協力、していただけないでしょうか。」
「何に?」
「俊蔵の失脚、です。」
この言葉には眉をひそめていた琉も目を見開いた。
「どういうことですか?」
翔也が少し身を乗り出した。
「……恋の事故を止められなかったのは、謝ります。しかしあの状況で事故を防げば、次はもっと確実に殺しに行く。そう思ったので車の細工だけでとどめさせてもらいました。今は、証拠集めのために泳がせています。」
「それをどうやって信じろと?」
琉は紘たちをかなり敵視していた。
「これを聞いてください。」
今まで黙っていた千秋がそう言い、ボイスレコーダーを取り出した。
そして再生されていく数々の俊蔵の悪行についての音声。それを聞いて琉も翔也も顔をしかめた。
「これでは証拠として弱いのです。あなた方はローデンス国の王子と接触しましたね?彼らに頼んで、レントラント王国との癒着の証拠を手に入れていただきたいのです。」
「……信じられない。」
千秋の言葉に、琉は冷たく返した。
「……信じてください。恋に罪はない。いいや、青木家に罪などなかった。なのに富と権力にしがみついて事故などを起こした父上には吐き気がします。それだけでは飽き足らず、他国にまで手を出している。だが俺たちだけでは証拠を集めきれない。俺たちだけでは逆らえないんです。」
「…琉…、信じてあげてもいいんじゃない?」
「本当に信用していいのか?仮にも烏沢の人間なんだぞ?こいつも9年前には嘘を言っていたんだ。」
確かに琉の言う通りだった。紘はもうどうしようもないのか、と頭を抱えた。
その時だった。
「……では、絶対に信じてもらえることを、お話ししましょう。」
千秋がそう言った。
「僕はもともと烏沢の人間ではありません。烏沢には養子として入りました。それは俊蔵様失脚のためです。僕は俊蔵様を憎んでいる。僕の本名は、聖川千秋ではありません。」
それは紘にも驚くべき事実だった。
「本当の名前は松宮(まつみや)千秋です。」
松宮、その名前には紘にも聞き覚えがあった。
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