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episode.96 悪あがき
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〜千秋side〜
「……何をしているんだ、千秋?」
千秋の背筋はぞくりとした。だが頭は冷静だった。
それは明希を逃してたった1分後のこと。
おそらく紘とは出くわしていない。
そこまで考えて千秋は振り返った。
「俊蔵様。」
「上原明希は?」
「先ほど様子がおかしかったので覗きに来てみたらこの状態でした。」
「……千秋、嘘はよくないよ?」
俊蔵の声は柔らかだがそれとは裏腹に目は冷ややかだった。
「千秋、君は一体何者なんだ?何を隠している?」
「……さぁ。僕は聖川千秋、それだけですよ。」
千秋はできるだけ平静を装った。
少しでも時間稼ぎをしなければ。
1つだけ先に証拠を提出し、逮捕状を出してもらった。警察がもうじき到着するはずなのだ。
「千秋、嘘はよくない。私はそう言った。」
「覚えてらっしゃらないんですね。」
俊蔵は少し迷った表情を見せた後、フッと笑った。
「……ああ。松宮家の長男か。」
千秋の両親は、恋の両親とつながる警察官だった。
恋の両親が手に入れた烏沢財閥の不正の証拠を保管していたのは警察署ではなく、松宮家だった。
当時まだ10歳だった千秋、3歳だった妹までも巻き込まれ、松宮家は火事に見舞われた。
運よく千秋だけが助かり、親戚が引き取って大切に育ててくれた。
俊蔵は、放火する前に千秋の両親と話をしていたのだった。
「あれは残念な事件だった。私も聞いて驚いたよ。」
「嘘をつくな!お前が、お前が殺したんだ!」
「ふははは!そんな証拠はどこにもない。千秋。君には私の悪あがきに付き合ってもらうよ。」
俊蔵がそう言った時、千秋の背後に男が回り込んでいた。
千秋が身を翻すより速く、男の手が千秋の口元に伸びる。
薬を飲まされ、千秋は意識を手放した。
「私は、失脚などしない。ふははは!」
その後の部屋に、俊蔵の高らかな笑い声が響いたことも知らず、千秋は深い眠りに落ちていった。
次に千秋が目を覚ましたのは外の様子がまるでわからない、小さな部屋だった。
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