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episode.102 隣人
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〜恋side〜
2月10日 土曜日
「りゅーうさぁーん……」
甘い声を出す小雪を尻目に、恋は朝食を作っていた。
小雪が同居し始めて3日が経った。
そして恋は改めて気づいた。
赤津は優しい。小雪にも、恋にも、だ。
「どうした?」
「頭痛い……」
「熱か?」
「んー……」
小雪は赤津に寄りかかる。
2人の身長差はかなりあるため、小雪の頭は赤津の肩に乗らない。
「飯はどうする?」
「んー……ご飯……?」
「おかゆでも作るか?」
「うん……」
恋は後ろで繰り広げられている会話に、ズキズキと胸が痛み、この場から逃げ出したい思いを抑えて振り返る。
「おかゆ、作りましょうか。」
「いや、悪いから俺が作るよ。」
「え……琉さん、そばにいてほしい……」
そう言う小雪に、赤津は仕方がないな、といった風にため息をつく。
「悪い、頼む。」
「はい。赤津さんはどうしますか?」
「俺は今作ってるのでいいよ。」
「……恋さんって、琉さんのこと名前で呼ばないんだね……?」
小雪のその一言は、恋の胸にチクリと刺さった。
「小雪。」
「だってそうじゃない……?やっぱり契約だからなの?」
「やめろ小雪。」
「うん……ごめんなさい……」
「……そんなシュンとすんな。小雪が悪いんじゃないから。」
赤津はそう言って小雪の頭を撫でていた。
恋の胸はズキズキと痛むばかりだった。
しかし手だけは冷静に動かしていて、冷凍のご飯を土鍋に入れると火をかけた。
恋のこの場からいなくなりたい思いを知ってか知らずかインターフォンが鳴り、恋はエプロンをつけたまま玄関に向かう。
「はい……って……え、え?」
「え、あ、え?」
扉を開けた恋の目の前にいたのは烏沢紘だった。
「……なにしてるんですか、こんなところで。」
「あ、えーと……実は隣に引っ越してきて、近所に挨拶回りしてたところ。」
言われて外を見てみれば、トラックが停まっていた。
確か隣は、大家のおじいさんが娘夫婦と暮らすことになってから、貸すか譲るか、みたいな話でずっと空き家になっていたはずだということを恋は思い出した。
「あ、そうだったんですか。」
「はい、これ、うん、タオルだから。」
「あ、ありがとうございます。」
「恋?どうした……え?紘さん?」
リビングから赤津が出てきて、玄関の方に向かってきた。
「どうしたんですか?」
「引っ越してきたんです、実は。」
「それにしてもどうして急にこんなところに?」
「あー、えーと、それは話すと長くなるというか……また昼に来てもいいかな?」
「俺はいいですよ。」
「赤津さん、ダメかな?」
「構わないですよ。」
「ありがとう。それじゃあまた。」
紘はそれだけ言うと出て行った。
「恋、ちょっと話を……」
「あ、おかゆ!!」
恋はあからさまに赤津の話を遮ると、赤津の横を抜けてパタパタとリビングに戻った。
(避けてどうするんだよ……)
恋はグツグツと煮立つおかゆを見ながら、エプロンをぎゅっと握りしめた。
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