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episode.156 意気地なし
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〜恋side〜
「……お客さん、飛行機の出発は何時だい?」
もう空港もほど近くなったところで運転手がそう聞いてきた。
「えっと、16時です。」
「……搭乗手続き終了までに間に合わん。この先渋滞だ。」
空港まで後少し、車が全く動き出す気配がなかった。
今の時間は15時。もう手続きは始まっている。
「お客さん、行きな。ここからなら走ったほうが早い。」
運転手は突然振り返りそう言った。
「え……」
「今から走ればギリギリ間に合う!止めてえんだろ?!早く行きな!」
「ありがとうございます……!」
恋はそこまでの代金を出して、道の端にタクシーを寄せてもらって降りる。
「……若いねぇ。うまくやれよ。」
運転手が走っていく恋を見ながらそんなことをつぶやいたのを、恋は知ることはないだろう。
*
〜小雪side〜
搭乗手続きの時刻が迫る中、外の雨は止む気配を見せなかった。
(あーあ……またそんな顔する……)
琉を見ながら、小雪はため息をついた。
さっきから、雷が鳴るたびに顔をしかめるのだ。
どうしてそんな顔をするのか、小雪にはなんとなくわかっていた。
(どうせ恋さんが雷苦手なんだろうなぁ。)
また雷が鳴る。
琉は眉を顰め、窓の外に目をやる。
「〇〇便に搭乗予定のお客様、搭乗手続きを開始しております。」
「琉さん、行くよ。」
「あぁ。」
小雪と琉は荷物検査をして中のロビーに入る。
2人は有名人だ。
できるだけギリギリに飛行機に乗ることにしている。
琉はそこでもまた窓の外を見ていて、鳴り続ける雷に顔をしかめ続ける。
搭乗の時間はどんどん迫ってくる。
(……あーあ。僕、失恋したみたいだなぁ。)
小雪はそんなことを考えた。
自分は確かに琉のことが好きだ。
恋に嫌がらせをしてでも、自分のものにしたいくらい。
だが、琉の心は小雪のものにはならない。
小雪はそれを実感してしまった。
「ね、琉さん。」
最終搭乗まであと5分。
小雪は声をかけた。
「ん?」
(ごめんね、荒療治、許してよ。)
小雪は心の中でつぶやき、琉にキスをした。
「っ?!ばっか、何すんだよ?!」
琉は小雪を押し退けた。
「言ったでしょ?僕、琉さんのこと、フィアンセだって思うくらいには、好きなんだよ。」
「やめろ!俺は恋が……!!」
琉がそう言った時、小雪はフッと笑った。
「……え?」
「あーもう。なんで僕がこんなことしてるんだろう。ほら、琉さん、行きなよ。心配なんでしょ?」
「え……」
「恋さんのとこ、行かなくていいの?」
「小雪……」
「もー、早く行きなって。キャンセルの手続きしてたら遅くなっちゃうよ。荷物はあとで送り返してあげるから。さっさと行きなさい!」
「でも……」
(此の期に及んでまだ悩んでるの?)
小雪はだんだんとイライラしてきた。
「この意気地なし!!録音して気持ち伝えるくらいなら直接伝えんか、たわけものが!さっさと行って抱きしめてこんかい!!」
小雪は気づいたらそう叫んでいて、周りの者たちの視線を集めたのは言うまでもない。
周りは2人が有名人だとは気づいていないようだが。
「……小雪、ありがとな。」
琉はそれだけ言って走って行った。
小雪は1人、席を立ち上がり搭乗口に向かう。
「あーあ。本当なにやってんだろうね、僕は。」
小雪は飛行機に乗り、ローデンスへと旅立った。
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