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〜恋side〜
1月11日 13時
それから、琉も恋も忙しい日々を過ごし、あっという間に約束の日を迎える。
ここ数日、千秋は受験勉強、明希は学年末試験に追われていて、恋も何かとバタバタしていたせいか、気がついたら11日になっていた、という感じだった。
「恋、用意できた?」
「はい!」
「じゃ、雪降る前にさっさと行きますか。」
差し出された琉の左手の薬指には、お揃いの指輪。
そして胸元にもお揃いのネックレス。
それを見ただけで口元が緩むのだから、間違いなく、恋は舞い上がっている。
「やっと恋が奥さんになるのか。」
区役所への道を歩いているとき、琉が微笑みながらそう言う。
「まだ出してませんよ。」
「まあそうだけどさ。あ、表札変えないとな!」
「へ?」
「だって赤津になるんだぞ、恋も。」
今更それに気づいて、ものすごく恥ずかしくなる。
赤津恋、だなんて名乗ることになるのだ。
「うん、いいな。赤津恋。俺のものみたいですげー嬉しい。」
「もう…恥ずかしいことばっかり言わないでください。」
「…やーダメだ。俺今夜は止まらない自信ある。」
「え?」
恋が何のことかわからず、きょとん、としていると琉が耳元に口を寄せてくる。
「いっぱい抱かせてね。奥さん。」
「な、なっ…お、おくさん…」
まるで湯気でもあがるのではないかと思うほど、急速に顔を赤く染めた恋の頭は、軽くキャパオーバーだ。
「婚姻届出したら、本当に本当に、俺の奥さんだもんな。やばい、すごい嬉しい。」
琉が心底嬉しそうにそう言う。
恋はものすごく恥ずかしかったが、それでもやはり嬉しかった。
幸せで、たまらなかった。
だが、それは突然、崩れ去る。
「琉?」
区役所がもう見えてきて、信号待ちをしていたときだった。
恋が聞き覚えのない、美しい女性の声が聞こえた。
琉はピタリと固まって、そっと振り返る。
「…か、ほ?」
「やっぱり、琉だったんだ。」
恋も恐る恐る振り返る。
そこにいたのは、あの美しい声を持つのにふさわしい、美人でスタイルのいい女性。
長い黒髪に、ふんわりとしたワンピース。そして女性らしい体つき。
それら全て、恋にはないものだった。
「琉、会いたかった。ずっと探してたのよ。」
「香帆…」
親しげに名前を呼び合う2人。
そっと琉を見上げた恋の胸は、ぎゅうっと締め付けられた。
琉は、切なさの中に、確かに愛しさを含む眼差しを香帆に向けていた。
恋は、わかってしまった。
琉にとって彼女は、大切な人だったのだ。
「あの…失礼ですけど、どちら様?」
香帆の視線がこちらに向く。
答えようと思っても、声が出なかった。
「琉、どなたなの?ご兄弟?お友達?」
「あ、えーと…」
恋人だ、婚約者だ、とすぐに言ってくれないことに、また胸が痛む。
「もし、大事な御用じゃないなら、少しだけ、話したいな。ダメかしら?」
琉は明らかに戸惑っていて、そして迷っていた。
自分との婚姻届を出すことと、香帆との再会による喜びは、天秤にかけて、同等のことなのだと思うと、ものすごく苦しい。
「今日だけ、琉を貸してくださらない?」
優しい笑顔を向けられて、恋は俯くことしかできない。
自分は琉の恋人で、これから婚姻届を出しに行くから、今日だけは譲れない。そう答えたい。
どうするべきか迷って、恋は、はっきり言おうと決めた。
琉は、自分を愛してくれると、いつもいつも言ってくれている。
なのに、その琉を信じないのは、ひどいことだとそう思った。
だが、恋のその決意は、一瞬で崩れ去る。
「え…?」
繋がれていた手が
離された。
琉は俯いていて、こちらに視線を向けてくれない。
これがどういう意味かなんて、考えたくない。
もう離さないと言われていた手を
離された。
胸が苦しくなる。
たった数秒が何時間も経ったかに思えた。
気がついた時には、走り出していた。
でも、琉は、恋を引き止めなかった。
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