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Actー1
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誰もが一度は、自分をやめたい思ったことがあるんじゃないだろうか。
「光(ひかる)ちゃーん、こっち向いてー」
例えば、自分の努力が実らなかった時。
「光ちゃん!こっちも笑顔!お願いしますッ」
例えば、大事な人から自分を否定された時。
「ハアハア、光ちゃん、ハアハア……」
例えばーーそう、失恋した時。
誰もが一度は、自分以外の誰かになれたらと思うことがあるはずだ。
そういう時は決まって自分が自分であることに疲れて、傷ついた時で。特にひどく傷ついた時には、その心を癒すにはこの方法がいいんだと、俺の姉は言った。
「光ちゃん!樹理愛風に投げキッスして!」
それはーー誰かになりきること。
その誰かがするような格好をして、そのように振る舞うこと。
俺はウィッグの長い髪をかき上げてから一度下に視線を落とし、顔を上げてからふっと笑うと左手を唇に当て、ウインクしながらその手を離した。
途端、周りから湧き上がる悲鳴とも歓声ともつかない声に思わず笑ってしまう。
カシャカシャと鳴り止まないカメラのシャッター音。焚かれるフラッシュ。この中で自分以外の誰かになりきっている時だけ、俺は現実の憂さを忘れられる。
この方法ーーコスプレを、誰に馬鹿にされようが。
俺はこれを、とてもやめられそうにはなかった。
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