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2.渡良瀬塾7
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俺は渡良瀬の視線を忘れるために、自分史上最高の集中力でもって渡良瀬作のプリントに取り組んだ。むしろ、そうしないとどうにかなってしまいそうだった。
「終わったっ!」
正解率にはまったく自信が持てないが、教科書を参照しながら、なんとか全ての問題を解くことができた。
「では、僕が採点します。ちょっと待ってくださいね」
成果物を渡良瀬に手渡す。今度は俺が得意げになる番だ。
渡良瀬が俺の解答に視線を滑らせる。最初は早かった視線の動きも、後の問題になるにつれて鈍ってきた。しかも表情もどんどん微妙なものになっていく。たぶん俺がとんでもない解答でもしてたんだろう。けれども、次々に移ろっていくその表情を見るのはなかなか面白かった。
「僕に何かついてますか?」
不覚にも、そう聞かれるまで気づかないくらいには夢中になっていたようだ。
なんだか悔しくて、視線を落とす。
さっきとは逆の立場だった。
「いや、別に……首の上にアホ面はついてるけど」
「それこそもともとですよ。安藤さんに見られてると思うと……その……集中できません」
「お前が言うなよ。……さっきお前に見られてたときの俺もこんな表情してたのかなって」
そういうわけだ。お前みたいな気色悪い理由でお前のことを見てたわけじゃないんだぞ。
「そんな、とんでもない、安藤さんはもっと……いえ、何でもないです……」
渡良瀬はまた変な事を言いかけて、口を閉ざした。さすがの渡良瀬も今度は自重したようだ。よしよし、これからもその調子でいてくれよ。
渡良瀬が添削作業に戻ったので、俺は適当に窓の外を眺めていた。といっても、視界に入るのは大和工業高専の他の建物ばかりだ。窓越しに、中学生みたいな顔した下級生や小学生みたいなノリではしゃぐ上級生が見えた。けれどもさすがは高専、どこも男ばかりで華がない。ーー建前上は共学のはずなんだけどな……。
そんな感じで高専教育の現状を嘆いていると、すぐに渡良瀬の添削が終わった。
「表面は合格です。裏面は……難しかったですか? 僕が解説します」
「頼む」
さすがに紙切れ1枚分くらいの学力は身につけなければ。俺は渡良瀬と一緒に外が真っ暗になるまで教室に残り、ひたすら知識を叩き込んだ。
ネットワークAの再試は明日だ。
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