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1.中退の危機3
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次の日、授業が終わってから、俺は渡良瀬に話し掛けるタイミングを伺った。あいつも俺と同じで一緒に残って何かするような友達がいないのか、すぐに帰る支度を始めている。
いや、俺は別に渡良瀬みたいに変な奴だから友達ができないわけじゃないぞ。鬱陶しいから作らないだけだ。
俺に友達がいない、否、必要ない理由は置いといて、このままだと渡良瀬はすぐにでも帰ってしまいそうだ。既にバッグを肩に掛けて、ドアのほうへ向かっている。
「おい、渡良瀬」
バッグがずれ落ちそうななで肩を叩いてこちらに向き直らせる。
「はい、僕に何か……あ、安藤さん……っ!?」
渡良瀬は、自分を呼んだのが俺だと気づいた途端、怯えるように視線を逸らした。こいつを含め、クラスの奴らの大半は俺に対してこんな態度を取る。別に取って食おうとしてるわけじゃねぇのに、どいつもこいつも鬱陶しい。
ただ、渡良瀬は最初から俺を怖がっていたわけではなかった。その頃のこいつは別ベクトルで鬱陶しかったけど。
まあ、今は俺のことをこいつがどう思っていようと構わない。目的があって声を掛けたんだからな。
「俺の勉強付き合え」
有無を言わせず命令形で言い切る。
俺の人生が懸かってるんだ、お前なんかに断らせないぞ。
「え…………」
数秒の間があった。なんか、嫌な予感がする。
顔を上げた渡良瀬と目が合う。次の瞬間、渡良瀬は俺に抱き着かんばかりに腕を掴んできた。
「ぼ、僕でいいんですか!? 僕なんかが、その、安藤さんと……!」
そして俺の腕を揺すりながら、一人で騒ぎ始める。その声は驚きと喜びに満ちていた。
いつもは冷静な(奴だと周りから勘違いされている)渡良瀬の狂乱ぶりに、何人かがこちらを振り返る。
どうやらさっきの嫌な予感は的中したらしい。
俺は大げさに溜息をつきながら、渡良瀬の謎の誤解を訂正した。また間違えられても困るから、はっきりと。
「……お前勘違いしてね? 俺と付き合えって言ってんじゃなくて、俺に勉強教えろって言ってんだけど。俺、このままじゃ進級できねーの。ピンチなの。だから俺が再試で合格できるように勉強教えろ」
「あ…………」
俺を揺する渡良瀬の手から力が抜けた。謎の誤解からも、腕の拘束からも、俺はやっと解放されたようだ。
「す、すみませ……僕、ちょっとした思い違いを……」
「『ちょっとした』ってレベルじゃねぇだろ。 で、いいの? ダメなの?」
「……はい。僕でよければ、お教えします……」
こうして俺は、忌み嫌っていた渡良瀬の手を借りることになった。
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