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だるまさんが、転んだ(やや★)
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だるまは、転ぶのか?
下らない話ほど、時に熱が入る。
「なぁ、京…………………」
「あー?何やぁ、竜也」
「だるまさんが転んだのだるまは、転ぶんか?」
「…………………………は?」
だるまは、転ぶんか?
今回の議題、決定である。
「ナギさん、元気出して下さいよー」
「そぉっすよ~、女は愛実だけやないですって!」
街角のハンバーガーショップ、テラス。
丁度、学校の帰宅時間帯。
人気のテラスは、学校帰りの生徒達がいつものようにテーブルを埋める。
その一角に、ここより一番近い相沢工業高校(通称相工)の男子達が十数人集まり、黒い学ランの山を築いていた。
しかも、何やら中央に座る仲間を慰めてるようにも見える。
「ナギさーんっ」
ナギさん。
相工では有名な不良のリーダー的存在。
柳楽仁志だから、ナギさん。
男子達の中にいても目立つ、190㎝はある身長と100㎏は超える巨漢。
ウリは、怪力。
腕を握られただけで、骨を折られたと噂もたった。
「うっさいわ!俺にとって愛実は大事な彼女やったんやぞ!なのに…………なのに愛実のヤツ、俺を『だるまみたいやから、もう嫌や』て………………」
「だる……………………」
彼女にだるまと言われてフラれたと、ナギさんは嘆く。
だるま……………………。
思わず吹きそうになる口を押さえ、周りは言葉に詰まる。
確かに、見た目は『だるま』。
愛実………………ナイス。
誰もが、そう思った。
思ったが、まさかそれが事態を悪化させるとは、思いもしていなかった。
「竜也ぁ~、だるまがおったぞー♪」
え………………………。
突然テラスに響く、『だるま』なるフレーズ。
火に油を注ぐとは、この事か。
だるまが、おった?
誰だよ、オイ。
まさか、ナギさんをだるま呼ばわりか?
相工の連中が凍り付く後ろから、だるま呼び捨て野郎達登場。
「おー、京!よう見つけたなぁ~♪だるま!」
それも、ダブル。
出た、ハチャメチャコンビ。
店内の女子高生達から熱い視線を浴び、現れました、我らが竜&京(※)。
だるまで傷心中のヤンキーなんて知るよしもなく、陽気に『だるま』連呼。
バキッ……………………
「だるまやと…………………」
だが、当然言われた方はたまらない。
飲み干したジュースのカップを握り潰し、ナギさんの顔は引きつった。
「どいつもこいつも、人を笑いよって……………」
ヤベ……………………。
ナギさんが、キレる!!
ナギさんを囲む相工集団の間に、一気に走る緊張。
なにせ、190の巨漢だ。
そう簡単には止められない。
「ほれ………………駄菓子屋のさや婆に、お前が言うただるまの話したったら、ええのがあるわってくれたんや。おもろいやろ?ミニだるま」
「さすが、さや婆!ホンマのだるまやんかっ」
進学校に通う京之介と、地元のヤンキー校へ通う竜也。(たまに行きます、竜也も学校)
学校帰り、ハンバーガーショップで待ち合わせをしていた二人は、何故か掌サイズのだるまを眺め、盛り上がる。
はい、だるまです。
昨日の夜、京之介は突然竜也から議題を放たれる。
『だるまさんが転んだのだるまは、転ぶんか』
なんや、それ。
普通なら捨て去るであろう話題を、本気で考えてました、京之介。
近所の相談役(?)、駄菓子屋さや婆にお馬鹿な話を持ちかけた。
竜也の疑問、解決してやろうやないか。
京之介、ある意味あんたは偉い。
でも、だるまさんが転んだのだるまと、リアルだるま………………え、そこ?
「竜也、これで実験せえ……………だるまさんが転んだのだるまは転ぶんか」
京之介は、マジマジ自分の手を見る竜也へ向け、さや婆に貰っただるまを差し出す。
だるまは、だるま。
間違いはないだろ。
「京……………………有難いけど……………だるまさんが転んだのだるまは、このだるまなんか?」
うん、だよな。
問題は、そこよ。
だるまさんが転んだは、古い遊び。
リアルだるまから、それを学び取るのか?
いや…………………その前に、最早だるまさんが転んだが並び過ぎて、私の頭はだるまさんが転んだしか浮かばない。
だるまさんが転んだ。
もう、何かのまじないのよう。
「だるまは、だるまや!下らん話に付き合うてやっとんやから、ゴタ抜かすなっ!」
ごもっとも。
昨夜から考え続けた京之介の我慢は、限界を超える。
爽やかな風が吹き抜けるテラスで、竜也の頭目掛けてだるまを投げつけた。
が、竜也の反射神経はすこぶる優秀。
「わっ!危ないやんけっ、京っ!」
至近距離で投げられただるまを、ひょいと避けたのだ。
バッコーン…………………ッ!!
「……………………っでぇ!?」
だるま、よりにもよって竜也の背後にいたナギさんの頭で跳ね飛んだ。
さらば、だるま。
「てめ……………何しとんじゃあっ!!ゴラァッ!!」
当然、ただでさえだるまを聞かされ続けて苛立っていたナギさんは、キレた。
「あ……………………だるま」
竜也、それ禁句。
周囲のざわつきをよそに、振り返った竜也はナギさんを見て一言。
「なんや…………………さや婆にだるま貰わんでも、ここにおったやん」
京之介、彼、人だから。
ナギさんを指差す竜也の隣で、京之介は溜め息をつく。
「誰が、だるまや……………っ!!お前ら、俺をナメとんのかっ!!」
「ナメるもなにも、誰や、お前」
喧嘩はするが、興味ないものは覚えない。
名の知れたヤンキーなんか全く知りません。
真っ赤な顔で怒るナギさんを見て、京之介はしれっと訊ねる。
「え、せやからだるまやろ?」
火に油を注ぐ以前に、大砲ぶっ込みます。
竜也にいたっては、いまだにだるま扱いしかしていない。
「っざけんな!!お前ら許さへんぞっ!真二っ!アレ出せ……………アレ!」
アレ……………………?
「はっ、はいっ!!」
ナギさんに名を呼ばれ、慌てて鞄を開ける、丸刈りの子分。
「ナギさんっ!どうぞ………………っ」
急いで持ち出したのは……………………。
「あ?………………………リンゴ?」
リンゴだな。
子分は、いそいそと手にしたリンゴをナギさんへ渡してる。
竜也も京之介も、突如出されたリンゴを前に、キョトン顔。
どうした、だるま。
腹でも減ったのか?
「ええか、よう見とれよ!俺はな、ここいらじゃ有名な不良…………………怪力の、相工ナギやっ!!」
バキバキバキィィ………………ッ!!
激しい音と共に、飛び散る果汁。
「ぉおおおっ!!さすが、ナギさんっ!!」
「きゃぁぁぁぁ………………………っ」
どよめく外野を横目に、ナギさんは意気揚々とリンゴを片手で砕いて見せた。
「どうやっ!俺の怪力わかったか!!」
心地好い歓声に、ナギさんは得意気に二人を睨む。
どうやっ!
「リンゴ、勿体な…………………」
「こないな無駄遣いする為に、リンゴ持ち歩くやなんて、ダサ……………………農家さんに謝れ」
…………………………は。
どうやっ!、アッサリ玉砕。
違う意味で、二人をシラけさせた。
食べ物は、大事にしろ。
作ってくれた皆様に、感謝を。
この頃から、竜也と京之介には身に付いてましたから、ええ。
「大体、わざわざリンゴ使わへんでも、側にええリンゴがあるやないか」
「なっ、なに………………!?」
側にええリンゴ。
そう言って、おもむろに歩み寄る京之介に、ナギさんは顔色を変える。
自分のリンゴ潰しに動じなかった連中は、初めて。
さすがに、こっちが動揺する。
ガシッ…………………………
「な、リンゴ…………………」
「いっ!!?いてててて……………っ!!痛いっ!痛いってぇぇぇっ!!!」
な。
丸刈り、京之介に頭を鷲掴みされる。
それ、リンゴですか?
呆気にとられる相工集団を尻目に、京之介の指はナギさんの子分の頭へメリ込んでいく。
目からは涙。
マジです。
「アホッ!京………………それリンゴちゃうぞ!」
思わず叫ぶ、竜也。
そうそう、リンゴじゃない。
「あぁ?これ、リンゴちゃうねんか?」
「ちゃうわ!よう見ぃや……………ジャガイモやん!」
ジャガイモでしたな。
「どっちもちゃうやろっ!!お前ら、人をコケにすんのも大概にせえよっ!!!」
ナギさん、ついに発狂する。
こんなふざけた奴等、見た事がない。
その間も、子分は掴まれた頭が痛くて泣きながらもがいているも、京之介は平然と掴んだ頭をグラグラと振り回す。
「ナっ…………ナギさんっ、助けて下さい!!こいつの力半端ないっすっ!!マジで、頭割れてまうっ!」
「真二……………………っ」
京之介の握力、怪物級。
リンゴ割りなんか、朝メシ前。
今更驚きもしない。
頭、本当に割っちゃうかも…………………?
「待てっ!!真二っ…………今、助けたるっ!!」
焦ったナギさんは、咄嗟に子分の頭から京之介の手を離そうと、腕を握りに行った。
ガシッ………………………
握られた、京之介の腕。
「わっ…………………京に触ってもうた………………」
「へ…………………………」
後退りする竜也に、ナギさんは眉をひそめる。
触ってもうたって、何。
へ………………………と、顔を上げた時には、遅かった。
「おい、コラ…………………俺に触れてええんは、竜也だけやぞ」
唸るような低い声と、恐ろしい程の鋭い眼差し。
竜也だけ。
心友竜也以外には、気安く身体は触らせない。
京之介の信念。
「ひっ………………………」
「何が、怪力じゃ……………………だるまは、大人しゅう黙って座っとれっ!!ボケぇぇぇ…………っ!!!」
ガッコォォォォ………………ンッ!!!
「ぐはぁ……………………っ」
「ナギさん………………っ!!」
100㎏の巨体、宙を舞う。
ご愁傷様、ナギさんよ。
逃げる間もなく、振りかぶった京之介の拳に、思い切り顔面を殴られた。
ガサガサ…………ドシーンッ!!!
人は、見た目じゃない。
モデル体型の京之介のパンチは、とんでもない重さと破壊力。
ぶっ飛ばされたナギさんは、テラスの垣根を飛び越え、歩道の方へ消えてった。
辺りはシーンと静まり返り、ただただ呆然と立ち竦む。
「竜也ぁ……………………」
「ん………………………?」
「だるま……………………転んだで」
議題は、片付いた。
ちなみに、投げただるまは、ちゃんと拾いました。
(※nao 様の呼び方が素敵だったので、拝借致しました。nao 様ありがとうございました!)
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