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誰の人生か
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竜童会組長嵩原竜也。
僅か十代後半でその道に入り、瞬く間に天下を掴んだ男は、ヤクザ達の憧れであり、目標。
カリスマの中のカリスマだ。
そんな男を、唯一本気で叱れたヤクザ。
それが、木瀬。
竜也が、初めて憧れた男。
「嵩原………………………」
自分を呼ぶ大きな声に、華のあるヤクザは振り返る。
立っているだけで、格好良かった。
大人って感じで、手にした煙草をゆっくりと口へ運ぶ仕草も様になる。
「ハァ……………ハァ………あんた…………何考えとんや」
たこ焼き屋から、数百メートル。
木瀬を追いかけてきた竜也は、視界へ飛び込んで来た姿に間髪入れず話しかけた。
「何……………………何って、久々に会うて挨拶もなしにそれか」
「は……………………」
竜也見て、クスリと笑う木瀬の一言。
挨拶。
まさか、いきなり説教かよ。
竜也は渋い顔をして、額を流れる汗を手で拭いながら、木瀬を睨んだ。
「よう言うわ………………俺に挨拶もなしに、いらん話おやっさんに言うた奴が」
「はは………………なんや、怒ってんのか?」
「怒るわ!ただでさえ世話になっとんのに、また迷惑かかるやろっ」
孫ほどの年齢の竜也を可愛がってくれてる、おやっさん。
なるべく迷惑をかけないよう、喧嘩をふっかけられても警察沙汰だけは避けてきた。
それが、いきなりヤクザが現れる。
どう考えても、迷惑極まりない。
「せやな……………………あの歳で、お前を抱えるんも大変やしなァ………………可愛い言うても、おるだけで負担は大きいでな」
「な……………………」
おるだけで、負担。
痛いところを突く。
それは、竜也もずっと考えていた。
自分は、おやっさんの家族ではない。
これ以上、負担をかけるのもどうなのかと。
自分を捉える木瀬の目が、先を悩む腹の中まで見透かしているようで、竜也は言葉に詰まる。
負担……………………。
「有り難い事やけど、そろそろ将来も考えたらどうや?親のおらんガキなんぞ、世の中には山ほどおるわ……………それを理由に人に甘えるんか、それを抜きに先を見据えるんかで、てめぇの度量は決まるで。お前なら、そないなモン蹴散らして図太く生き抜けるて、俺は見たから欲しい思うたんや」
「木瀬さ………………っ」
木瀬の吐き出す煙が、風に乗って空高く舞い上がる。
何言ってんだ、この人。
会って、まだ2回目。
2回目で、なかなかの重い話を浴びせてくれる。
くれるが………………自分の将来なんて、誰かが話してくれた事なんかあっただろうか。
誰もいなかった。
キツいと思ったが、嫌じゃない。
ヤクザを信用するかと言われれば、まず信用しないけれど、木瀬は信用出来る。
ただの直感だが、竜也の中で何かがそう言っていた。
「嵩原……………俺は、ヤクザや。軽はずみにお前に声をかけられる男やない事くらい、ようわかっとる。でもな、声をかけとうなった…………お前は、何もかんもが違うねん。それは、誰もが持ちとうても持てへんもんや。見た瞬間、我慢出来ひんかった…………どうしてもお前に、極道の腐った世を変えてもらいたいとうてな」
極道の腐った世。
当時、木瀬が極道に身を置いて、既に10年越え。
初めはよくいるチンピラ風情だった木瀬も、10年の年月で貫禄あるヤクザとなった。
竜童会に、木瀬あり。
そうとまで言われるようになった木瀬が言う、腐った世。
「俺が、命を懸けて育てるさかい、一緒に来てくれへんか」
緩やかだった風が、微かに強さを増す。
命を懸けて。
惚れ込むとは、こう言う事。
年齢なんて関係ない。
「命を、懸けて……………………」
「ああ…………………俺の全てを、お前へ捧ぐわ」
後にも先にも、木瀬は竜也にとって一番のヤクザ。
亡くなった現在も、それは変わっていない。
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