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どろどろの邪心(7/12)
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* ……白は自分の事を"化け狐"って言うけど、俺はそうは思わない。 だって白、口は悪いけど、本当は優しいもん。 帰り際、白の手にそっと触れたら、ぎゅっと手を握ってくれた。 「ねー…、白」 「何だ」 「白は俺を助けてくれたけど、俺は何もしてないから……お礼しなきゃ。 何がいい?白」 「……では、お前が捕らえたカゴの中の蝉を頂戴しよう」 「いーけど……それでいいの?」 「そのまま蝉を持ち帰っても、お前は閉じ込めて殺すだけだろう? 蝉は一週間という短い命の中、相手を求め懸命に鳴いている……」 白は俺から虫カゴを受け取ると、中にいた蝉を森の中へ放つ。 「最も……永く生きすぎるのも辛いがな」 「……白…」 狐のお面で顔は見えないけど、白が寂しそうな表情をしている気がする。 握っている手にギュウッと力を込めると、白が「痛いぞ」と言って苦笑をもらした。 「ヒトの子……、この階段を下れ。すれば、山から出られるだろう」 白…、と呼ぼうとすると、階段の下の方から聞き慣れた声がした。 「達希~!どこにいるの~?」 「かーちゃんだ…!かーちゃん、今行くよ~!」 かーちゃんに聞こえるように大声で叫んだあと、白の方を見る。 「白、明日も…っ」 「ならぬ。我はもうお前とは会わないし、お前も我を探したりするな」 「……どーして?俺、白のこと好きなのに」 黙り込む白の表情は、狐の面で隠されて全く見えない。 けど、面の穴から見える紅い瞳は夕陽の光を受けて、寂しげに光っていた。 「我は……寂しさや裏切りに打ち勝てるほど、強くはないのだ」 「寂しい……?白、寂しいの?」 「…ヒトの子よ」 白は手を伸ばすと、優しい手つきで俺の髪を撫でる。 「我の為を想うのなら、もう近づいてくれるな」 「白……ッ!?」 突然の突風に、思わず目をつぶってしまう。 目を開けたときには、もう白は居なくなっていた。 「白……」 かーちゃんが迎えにくるまで、俺は夕陽でのびた自分の黒い影をぼんやりと眺めていた。
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