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どろどろの邪心(10/12)
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「……くしゅんっ」
あぁ……先刻からくしゃみが止まらぬ。
夏場にはそぐわぬ寒気が走り、ブルブルと身を捩らせる。
反動で、己が身の白い毛が躍った。
誰だ、我の噂をする者は。
……あの少年…か。
山の頂上まで駆け上がり、木に足をかけて眼下に広がる民家の集落を見下ろす。
あの民家のどこかに、あの小僧が……。
この時期のことだ。
あの小僧の親が、盂蘭盆でこの地へ戻ってきたのだろうな。
……となると、小僧は"夏休み"というものが終わるまで、この地に居ることになる。
すれば──また少年はきっとここへ…。
「……っ、我は何を考えているのか…」
あの少年の事は、もう忘れるのだ。
散々、ヒトには痛めつけられたのだ……ヒトの子を恨んでも良いものを。
かぎ爪でガリリッと木に傷をつける。
恨め。ヒトの子を恨むのだ……!
我はもう、これ以上終わりが見えぬ永遠の時を独りぼっちで過ごしたくない。
山の主の呪いを断ち切り、終わりがある時の中、愛する者を見つけて懸命に生きたいのだ。
……夏の蝉の様に…。
こうべを垂れて息を吐き、夜空に浮かぶ月を仰ぎ見る。
あぁ……月と陽とこの山だけは、変わらず我の傍に居てくれる……。
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