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尋ね人と待ち狐(22/22)
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──あぁ……山のすそから、ヒトの声がする。
達希…早く、我の元へ……。
お前の笑顔が見たい。
頬が緩むのを感じながら、己の顔に包帯を巻きつける。
この狐の面が手に入る前までは、このように包帯を巻きつけ、ヒトと接していたものだ。……懐かしい。
包帯を巻きつけ終えた後、更に狐の面を被る。
小僧にひと泡ふかせてやろう。
自然と早まる歩調を懸命に諌め、平然を装い小祠へ向かう。……いた。
達希は小祠の前で肩を震わせ、声をあげながら泣いていた。
今度は一体何があったのだろう?
コホンと咳払いをし、喉の調子を整える。
それから、少年の元へ歩を進めた。
「小僧…」
「……!…白」
達希はゆっくりと我に近づいてくると、その泣き顔を我の着物に擦り付けてきた。
……平生のような勢いがない。どうしたというのだ?
「白……」
「どうした?」
「白……白は、誰……?」
「は…?」
意味の分からぬ質問をぶつけられてしまい、目が点になった。
「俺…、あれから色々考えた。白は今まで、色んな人たちと出会ってきたんでしょ?……お名前、色んな人たちからもらった…?」
「あぁ」
「……俺、勝手におにーちゃんのこと、"白"って呼んでるけど…本当は、おにーちゃんは"白"じゃない」
「……」
「おにーちゃんの本当のお名前は何…?
俺…おにーちゃんのこと、全部知りたい…ほしい。おにーちゃんのこと、大好きなんだ。だから…教えて……?」
達希は濡れた瞳を揺らし、我を見上げてくる。
我が達希に心を縛られているように、我も達希の心を縛っているのだろうか……。
少年と一つになりたいという気持ちが、必死に殺してきた思いの枷を外し、解放していく。
……欲しい。達希がほしい。
きっと後悔するだろうに、我は刹那の快楽に身を預けた。
「……初めて会ったときに言ったはずだ。我に名などないと。
だが、今の我には"白"という名がある」
狐の面を外し、包帯を巻いた顔を晒す。
達希の瞳が、大きく見開かれた。
「……我は白。お前に我の全てを捧げよう。……だから…達希の全てを、我に渡してくれ」
のちに、達希の裏切りに心狂わされることを知らずに。我は達希を求めてしまった……。
(二章・終)
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