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ちぎり、ちぎり(6/21)
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桜の花びらがひらひらと舞う季節、春。
達希と過ごす時を満喫した我は、平生の通り次に会う事のできる夏を心待ちにしていた……が。
達希は来なかった。
「……達希…………」
ぽつりと呟いたその名は、蝉の劈くような鳴き声によってかき消された。
新緑の葉から漏れる夏の陽の光。
木漏れ日をぼんやり眺めながら、己の都合の良く解釈した。
──何か……あったのだ、"きっと"。
また身内に不幸でもあったのだろうか。
或いは……忙しく、"どうしても"訪れることが出来なかったのだろうな。
流星群が見える頃には必ず来るだろう……毎年一緒に見ると約束を交わしたのだから。
山の頂上付近にある大木の表面に、爪で引っ掻き傷をつける。
最早、我の毎日の習慣となっている行為だ。
目の前に連なる"正"という引っ掻き文字。
少しずつ増えていくその文字は、達希に会える日まで辛抱した証……。
あぁ……夏よ、早く過ぎ去ってくれ。
我が達希を求めるのと同様に、相方を必死に求め鳴き叫んでいた蝉達が、一生を終えぽとり、ぽとりと地面に落ちていく。
山に静けさが戻り、木々の葉が綺麗な赤や黄色に染まっていく。
徐々に日が暮れるのが早くなり、枯れた葉が秋風により散っていく。
そして、遂に約束の時が訪れた。
沢山の星が瞬く、夜の秋空。
光の筋が引いては消え、引いては消え。
流星群を見上げて眺める我の隣に、達希の姿はない。
……また、来なかった。
達希……一体どうしたのだ。
重い病でも患ったのか?
まさか…事故などで亡くなったのでは……?
嫌な考えが頭をよぎる。
雪が津々と降る中、山の頂上に立ち、村の様子を眺める毎日。
すると、ある日見覚えのある車が村へ入ってくるのが見えた。
あれは……達希が前に乗っていた……!
心拍数が一気に乱れ、熱に浮かされたような高揚感に包まれる。
だが、車から降りてきたのは達希の母と父の二人だけだった。
やはり達希の身に何かあったのか……!?
そう思ったのだが、どうやらそれは違うようだ。
二人は幸せそうな笑顔を浮かべ談笑しながら、老女の家に入っていく。
あの二人にとって、達希は唯一人の大事な息子なのだ。
達希は家族に深く愛されていた。
達希の身に何かあったのだとしたら……あのような幸せな表情、するはずが無かろう。
だとしたら、何故達希は……。
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