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別れ・想い人に懸けるもの(9/16)
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あぁ…、時間が惜しい。
白い体毛を撫でて、その体温や匂いを懸命に感じ取る。
伝えきれない…白に対する大きな愛を、胸の内を占めている愛しい感情を。
「好きだよ……白。大好き…」
「我もだ……お前を愛している」
「うん…俺も白のことを愛してるよ…」
身を委ね、「白」と名を何度も呼ぶ。その度、白は「達希」と呼び返してくれる。
そのやり取りを繰り返して、数十分。
小祠へと続く階段を、一人の人間が登ってきた。
「……達希!」
とーちゃんは俺の姿を見つけると、大股で駆け寄ってくる。
そうか……とーちゃん達は白が見えないんだもんな…。
ゆっくりと立ち上がり、とーちゃんと向き合う。
その瞬間、パンッと乾いた音が響き渡った。
頬が痛い…ぶたれた…のか…?
いつもはかーちゃんの尻に敷かれて、怒ることは一切無かった、優しいとーちゃん。
そんなとーちゃんが、今までで一番怖い顔をして俺を見ている。
「達希……辛いのはお前だけじゃないんだ。
これ以上、お前の大事な母さんを泣かせるな」
「…………ごめん…なさい……」
じわっと一気に緩む涙腺。
とーちゃんは嘆息すると、俺の頭を優しく撫でてきた。
「……ぶって悪かった。心配したんだぞ…?
ほら、行こう。母さん達がお前を待ってる」
「…………うん」
階段を下って行くとーちゃんの背中を追うために、白に背を向ける。
……けど、耐えきれず踵を返して振り返った。
「……白…っ」
小祠の前で行儀よく足を揃えた白が、俺を見据えている。
「行ってこい……達希。我はここで待っているぞ」
「……っ、行ってきます……」
愛しい狐の目から涙がこぼれ、鼻筋を伝い落ちたのが見えた。
目を閉じ、ゆっくりと背を向ける。
涙が…止まらない。息が酷く苦しい。
"ただいま"
いつも口にしていたその言葉を、二度と白に言ってあげることができない。
白……俺を愛してくれて、本当にありがとう。幸せにしてあげられなくて、……ごめんな……。
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