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別れ・想い人に懸けるもの(13/16)
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……もうすぐ冬か。
地面を覆う枯葉に体をうずめ、明け方の西の空を見上げる。
ほんの少しだけ形が欠けている、白い月。
きっと今日は満月の日だろうな。
朝日を浴び、姿がヒトの形へと変化すると、頭に狐の耳が生えていた。
やはりな……。いつも通り狐面を被った後、懐からキセルを取り出し吸い始める。
「達希……」
まだ生きているのだろうか。
最後くらい……看取ってやりたかった。
だが、我より多くの人に見守られて逝けたほうが、達希は幸せだろう…。
キセルの白い煙をはき、左手の薬指に手にある銀色の指輪をじっと見つめる。
我は……少しでも達希を幸せにすることができたのだろうか。
今まで何度、この山を抜け出し愛する達希の元へ行きたいと思っただろう。
会いたい……会いたい。
もう二度と会えぬというのに……。
嘆息し、俯いたときだった。
石の階段を登ってくる足音と荒い息づかいを、我の耳が微かにとらえた。
こんな早朝に参拝客だと……?
訝しげに思い、階段を下りてみる。
すると、そこには目を疑う様な光景が待ち受けていた。
「……たつ…き……?」
何度もまばたきをし、じっと目を凝らす。
……間違いない……達希だ。
じわりと涙腺が緩む。キセルが指から滑り落ち、からんと音を立てて落ちた。
「あ……白…」
息を切らし苦しそうな表情をしていた達希が、我の姿を見て微笑む。
何故ここに来たのか?そう口にする前に、我の体は動いていた。
駆け寄り、ふらついている達希の体を抱きしめる。
「達希……達希ぃ…っ」
「白……今日は満月の日なんだね、狐の耳が生えてる。元気にしてた…?」
達希の問いに、黙って何度も首を縦に振る。
病により、体の線が細くなりやつれている達希。
ここへ帰ってきた理由など、今はどうでもいい。
懐かしくあたたかい体温に身を委ね、声をあげて泣きじゃくった。
会いたかった……会いたかったぞ、達希…。
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