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別れ・想い人に懸けるもの(15/16)
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「案ずるな……お前を一人で逝かせなどしない。我も共についていこう」
「え…?」
「お前に素顔を見せたら……我は死ぬ。そして道連れのように、お前の命も尽きるだろう」
「……!でも…」
「お願いだ……これは我の最後の願いでもある」
はるか昔からずっとだ……我は顔を隠し、生き続けてきた。
我の素顔を見た者は誰一人おらぬ…。
「我の顔を見てくれ……。愛する者に、己の顔を…全てを知ってほしい」
俯き、黙って達希の返事を待つ。
達希はそんな我の手のひらを優しく掴み、答えた。
「……うん。俺、白の為なら命を懸けられるよ。だから白……俺に顔を見せてくれる…?」
「……あぁ……もちろん…だ…」
心の奥底にあったわだかまりがとけていく。
ずっと、願っていたのだ……我の全てを受け止めてくれるヒトを。
…心臓が、煩いほど強く脈打っている。
「達希……早く…早く、我を見てくれ」
「ん……」
達希は目をつぶったまま、我の狐の面に手をかけて外した。
そして、手探りで我の頬に手を添える。
「白…俺さ、白に出会えて本当に幸せだった。
しかも、ずっと見たかった白の顔を見て死ねるなんて…嬉しすぎてどうかなっちゃいそうだ」
「我もだ……何度も、化け狐である己を恨んだ。だが、今は幸せだ……お前が我を幸せにしてくれた…」
「よかった……。ねぇ、白。俺、生まれ変わったら、また白と会いたい。
今度こそ、長生きして一緒に歳をとって、幸せに過ごそう。……約束だよ?」
「あぁ……きっとな…」
目を閉じていた達希が、ゆっくりと瞼を上げる。
達希の瞳に、我の顔が映った。
「白……やっぱり白は美人だったんだな。綺麗だよ、白。凄く綺麗だ……」
「……っ」
優しげな瞳で、我の顔を見つめる達希。
嬉しい……。
幾筋もの涙が、我の頬を伝い落ちていく。
それを指で拭ってくれる達希の目からも、透明なしずくが沢山零れ落ちていた。
「……愛してるよ、白。…また会おうね」
達希はそう囁くと、そっと我に唇を重ねてきた。
生まれて初めて…そして、最後の接吻。
……突如生まれた淡い光が、我らの体を包みこんでいく。死の光だというのに、あたたかい…。
達希の唇の熱を感じながら、ゆっくりと瞼を下ろす。
次にこの世に生まれ落ちるときは、達希のそばであってほしい。
そして、必ずまた会おう……愛しい想い人よ…。
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