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あなたを文字に興せない
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「僕はあなたを文字に興す術を知らない
僕の持てる力では、
どんな風に繋げてもあなたには勝てないし
あなたを表現するにはどんな言葉も稚拙に思える。
それにあなたの前にいると、
ただその美しさを瞳に焼き付けるのに精一杯だから」
小説家が文字に興せないだなんて致命傷だ。
上江は黒目を泳がせながら、だらだらと泣いて
ただ黙って會下の顔を見ていた。
會下もそんな顔から目が離せなかった。
悪戯のように与えられた下賤な才能。
自分でもそれを自覚していた。それでいいと思っていたし
それが天命であるかのように生きていくこともできた。
だけれど今、それは覆された。
そんな才能で書かれたものを美しいと崇め讃えていたこの青年を
書くためではなく、愛してしまったから。
この人に愛されることもなく
この人以外に恋をしなければならないなら、
辞めるしかない。
こんな全能感が世に名高い愚かな罪、恋だというのか。
重大なことであるはずなのに
ひどく楽観的になるのもこの病の特徴なのかもしれない。
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