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黒い髪を肩程まで伸ばして、さらりと日本人らしい綺麗な仕草で耳にかける。
大きな瞳にはいつもと変わらない静かな空間だけが私を籠に閉じ込める。
私は存在しない透明人間。
私は、小さな頃に誘拐された一人の人間。
「ねえ、何してるの?」
背筋がぞくりとする程凍った声で、名前さえ呼ばれていない声に肩が跳ねた。
とろけるぐらい甘い中に本能的な恐怖を滲ませる声の主は私の世界からの最終警告。
私を捕まえて離さない、たった一つの世界の。
片山 夏生(かたやまなつお)は18歳という異例の若さで大成功した実力のある作家。
売れっ子なんて言葉では縛れない夏生は昔から孤独感溢れる文章が共感を呼び、今では年齢層関係なく名前を知られていた。現在、28歳という年齢ながら褪せない文才を多いに発揮させる。
一條 渚(いちじょうなぎさ)は、この片桐夏生に7歳の頃に誘拐してもらった世間一般的にいう被害者Aだった。
でも間違えないでほしいのは私がただの被害者ではないということ。
寒空の下、初めて会った公園で、あまりにもその存在が綺麗だった夏生の服を掴んでしまったのは幼い頃の私。
助けてと叫んだつもりはないにせよ、優しく…くしゃりと無表情を崩した夏生はそのまま私の手を引いて走った。
私には夏生がくれた世界しかない。
夏生の私への依存性を考えると猟奇的なまでに彼は私に依存していた。
だから、きっと、私の世界の神様は、自分で作った箱庭に生きる私を最大級の愛情で慈しむ。
「ねえ、渚。聞いてる?」
「うん…」
「何をしていたの?」
「別に…」
「怒ってないんだよ?怖かったかな、ごめんね」
ウソ。
夏生の嘘は私を愛しすぎている事。
「本当に何でもないよ」
「渚は、僕から離れたりしないよね?離すつもりはないけど、渚は僕のモノなんだよ。僕は渚の為なら何でもする。僕は渚のモノだから、ね」
「うん、分かってるよ夏生」
ウソ。
私の嘘は愛してくれている夏生を愛してあげられないという事。
そんな私達は、二人っきりの世界では存在するけれど。
少しでも触れていないとどちらも透明人間のように儚く崩れてしまうんだろう。
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