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「チッ…逃がしたか」
静寂を取り戻した月下、彼の悔しげな声が吐き出される。
悔しさを醸す後ろ姿に声を掛けてもよいか考えあぐねていると
彼は先ほど男が消えた辺りへと歩んでいき、歩を止めると何かを抱え上げた。
あれは…
その腕の中には血だらけの小さな身体があった。
「すまぬ…」
ぼそりと発せられたかと思うと、彼はまた何かを唱え、薄紫色に光を帯びた掌を猫の口元へと翳(かざ)した。
ボゥ…と猫の身体が淡く薄紫色に光り出す。
何かを掴み上げるような仕草をした彼の掌には、真っ白な光の玉が浮かんでいた。
暫く彼の横顔を淡く縁取っていたそれは、やがて浮かび上がって消えていった。
どれくらい夜空を見上げていたのだろう。
頭上にある月はいつの間にか元のそれへと戻っていた。
「あの…」
未だ見上げ続けている彼に恐る恐る声を掛けると、ジロリと睨まれた。
彼が近付くつれて、俺の周りを囲っていた猫たちが道を開いていく。
そうして、俺の前までやってきた彼は一言だけ発した。
「解」
俺を覆っていた薄紫の膜がはらはらと空に溶けていく。
うわ…綺麗…
その様はまるで薄紫色の花びらが舞い上がっていくようで
思わず目を奪われていると
「……のせいで」
「へ?」
低く、唸るように発せられたその声は怒り以外の何物でもなかった。
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