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過ぎ去る、秋 第三章 ①
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『体を、返せ!!』
秋人は、心の中で精一杯の抗いを止めない。
もう、表に出ることは、叶わなくなってしまったけれど。この男を自由に行動させないだけの、抗いはしている。
「がんばるねぇ、君も」
なんて少々うんざりしたように言っているが。心の中にいる秋人は、この男が楽しんでいることを知っている。
もう少しだけ、まだ抗える。
この男が、動き出すことへの足止めを、少しだけしかできていないことは、秋人はわかっている。
それでも、抗い続けた。
俺が、簡単に、あきらめたら駄目なんだ。その思いだけで。
この男に、簡単に体を乗っ取られることは、秋人は許せなかった。
この男が、自分の体に入ってわかった。
たくさんの犠牲を出して、この男が私欲の為に、生き続けてきたことを。
そして、まだ、生きようとしている。
輪廻から外れ、もはや人間とは言えないモノ。
「君が、そんなに頑張るなら。そうだねぇ、器を変えるか。例えば、石井章君とか、どうだろう?君は殺すけどね。章君の体を使った僕が」
己の声で、不気味に笑いながら、告げられる残酷なこと。
『そんなこと、させない!』
「なら、さっさとあきらめて、僕に体を明け渡せ」
させないと言いながら、それを阻止するには、自分はこの男に体を完全に明け渡すしか、方法はないのだ。
わかっている。わかっているけれど。それでも。
もどかしい。力でこの男に敵わない自分が。
明け渡してしまえば、己が仲間を、章を傷付ける。
明け渡さなければ、章を器にして、ことを起こすと男は言う。
どちらを取っても、章を傷付けてしまう。
自分にできることは、何だ?
心の奥深く。潜って考える。
フワリと、己の力が、精神に宿った。
これは、何だ?何故?
自身の深層に深く潜ったことで、秋人自身が気付いていない力を、自分に宿らせていた。
これは、俺の力?
男に気付かれてはいけない。
この力を、気付かれないようにしなければ、ならない。
この力が、何らかの突破口になる。
「やっと、大人しくなったか」
男の声が聞こえた。
男は気付いてはいない。
気付かれないように、この力を自分に溜める。
それが出来れば……、きっと、この状況を突破できる。
この力が、この男を殺せるだけの力かどうかは、わからない。
それでも、残っていた己の力。できるだけ溜め込めば、この男への少しだけの反撃が可能だろう。
どのくらい、どこまで反撃できるかわからないけれど。それでも、この力は今は貴重なものだ。
悟られるな、気付かれるな。
今まで通り、抗え。そして、奥深くで力を溜める。
「こりないねぇ、君」
男は少々うんざりしてきていた。
たしかに、始めは楽しかったが、ここまで抵抗され、足止めされると、イラついてくるだけだ。
『お前がこんな風に、生きたりしなければ、誰も犠牲にならなかった』
己の子どもさえ、犠牲にした男。
秋人はこの男に殺されてきた、今までの人間すべての声を聞いた。
奥底に潜ったことで、聞こえてしまったのだ。
そして、己へと、力を預けてきた。
ずっと、この男の中で、彼らも生きていたのだ。器にされ、心の底からこの男を怨みながら。
それでも、いつかこの男を、殺せるようにと。生きてきた犠牲者たち。
奥底で、気付いた己の力と、今までの犠牲者たちの力。それを溜め込みながら、秋人は男を足止めする抗いを止めなかった。
できれば、仲間の元へこの男を行かすことなく、終わらせたい。
その為の力が、まだ、足りていない。
「僕が生きるのは、僕の自由さ。僕にはそれだけの力がある。そういうことだよ」
己の傲慢さに、男は気付いていない。
犠牲となるのは、それだけソレが弱かっただけだ、と。そう言い切る。
「僕はねぇ、自分がすぐに死んじゃうような、弱い人間で終わりたくなかったんだよ。終わらなかったから、僕は生きている。そうだろう?おかしなことじゃないさ。世界が、僕を認めたんだ」
『誰も、あんたを認めてなんかいない』
秋人は抵抗を止めない。
「あはははは。人間の枠ではないんだよ。僕はもう。だから、人間に認められようとは思っていないさ。ねぇ、僕を認めたのは、世界だと言っただろう」
笑う男。
自由にならない体。はがゆさを感じる秋人。
でも、まだだ。まだ、足りてないんだ。
あと少し……。
「君の頑張りは、認めてあげるよ。僕がね。でも、少々鬱陶しいんだよね」
そう言った男。秋人の精神が、拘束されるのを秋人は感じた。
これは……、駄目だ。奥底に閉じ込められる。
くそ、解けない。
「僕の力も戻ったし、そろそろ復讐劇の幕開けを、しようかな」
男の声を聞きながら、秋人はどうすることもできなくなっていた。
あと少しだったのに。男が仲間の元へ行くことを、もう止められなくなってしまった。
けれど、力を溜め込むことは、止めない。抵抗は、止めない。
力を溜め込み、拘束された精神さえ解き放てられれば、突破口は、必ずある。
秋人は、あきらめなかった。
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