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chapter Ⅲ
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side 黎
好き放題して満足したらしいアキが軽い足取りで俺の横に控える。どうやら従者気取りらしい。まぁ害は無いし、それなら望む通り使ってやろうか。
『起こせ』
「はーい」
当人が寝たままでは意味がない。移動の際に煩わしかった為昏倒させ、適当に転がされていた蓑虫へとアキが近づく。
ゴッ
嬉々として足を振り上げた情報屋は何の躊躇いもなくそれを脳天へ叩き落とした。恐らく頭蓋骨を直撃したであろう一撃はエグい衝撃音と共に地獄への幕開けの鐘と鳴った。
「っっ~!!」
目的通り目を覚ましたものの、痛すぎて悲鳴すら上げられないらしく、蓑虫は頭部を抱えたままのたうち回った。とはいえ落ち着くまで待ってやるほど暇ではない。ちらりと目線を向ければ心得たようにアキが未だに悶え震える男の髪を掴み上げた。何の配慮もなく行われた動作に数本の毛髪が散った。
『砂季 万(さき よろず)、一応聞くが、』
「お、俺にこんなことして困るのはお前らの方だろう」
誰が困るというのか。俺はただ、閉じ込められてしまった同級生を助ける為に凶悪な立てこもり犯に立ち向かい、結果襲われたので身の危険を感じて正当防衛をした、ただの(・・・)高校生にすぎない。
「俺は一般人だぞ!」
どの口がそれを言うのか。意外なことに、叫ぶ程度の気力は残っていたようだ。ただまあ、今その行動は悪手でしかない。何しろ
「ぐぅっ!」
「誰の話を遮っている」
その背後を陣取るのは俺の可愛い狂信者(・・・)だ。折角上げさせた顔は床を舐め、背中にめり込む膝が確実に肺を捕えている。あれでは呼吸もままならないことだろう。一方的に投げかけるだけならこのまま続行もありだが今回は多少の対話を必要とする。
『アキ、話が進まない』
「あ、ごめんなさい」
酸素不足で顔色が変わり始めたタイミングで待ったを掛ければ僅かに身を引いた。流石、酸素を取り込めるギリギリを上手く見極めているのでこれ以上騒ぎ立てることはできない。
『一応聞くが、反省する気は?無いな?なら話は早い。お前はこの後警察に引き渡す。そこの弟も含めてな』
「は、」
何を言われたのか理解できない、とでも言いたげな顔で男が固まる。後方では生徒会が弟の傍で悔し気にうつむいた。脅されていようがこのゴミに従って学園を混乱させ、恐怖の渦中に落とし込んだのは事実。俺が言うのもあれだが、犯罪は犯罪だ。もっと上手くやればいいものを。どんなにヤバいことでもバレなきゃなかったのと同じ事にできる。バレなきゃな。
『ちなみにお前の父親はとっくに豚箱入りしている』
この兄弟の父親は典型的な亭主関白に加え、日々のストレスのはけ口にと妻にDVを働いていた。まぁ、ここまでならよくある話だし問題ない。問題なのは、妻が薬付けになっていたことだ。夫からの暴力に耐えきれず、逃走を図ったが結局捕まり、二度と脱走しないようにと薬で思考を制限され、自宅地下に監禁。元々、ウチからも警察からも目をつけられていた家だったが決定打がなく、今回の件は良い口実になった。砂季(兄)がこの学園に立てこもった時点で待機していた警察が自宅に突撃し、父親はそのまま取り押さえられ、母親は病院送り。まさにあの親あってこの子あり。この男も大事な弟を孤立させて手中に収めたかったようだし、逮捕されなかったとしても監禁ルート一択だろう。まあ、塀の中なら必ずしも安全かと言えばそうではなく、どこにでも変態という生き物は一定数存在するのだ。
「くそッくそッ、邪魔しやがって、お前だって所詮は同じじゃないか!」
悪足掻きも度が過ぎれば只管に惨めなだけだというのに、今度は一体何を言い出したかと思えば。この男に対して感情を動かすことすら面倒になりつつある俺に対して、怒りと屈辱と嘲りの入り混じった騒がしい表情が向けられる。
「この情報屋を洗脳して自分に縛り付けているお前だって、十分『イカレてる?』」
洗脳というか調教というか、まあ、否定はしないが。クツクツと思わず湧き上がる笑いを隠す気も起きず、頬杖を付いたまま空いている方の手をポケットに潜り込ませる。
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