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久しぶりに影山先生の元へ行った。影山先生は蓬莱さんの知り合いの外科医だ。とても腕が良く、昔は大病院に勤め遠方から患者が訪れるほどだったそうだが、疲れたと言ってオフィス街にあるとあるビルの一角に、闇医者かと思うほどひっそりとした個人病院を作ったらしい。
肛門外科が専門と言うわけではないらしいが、SM好きが高じてか、蓬莱さんやアングラ界隈の伝で、アナルセックスしすぎてアナルが弛んだやつの治療や、間違った緊縛や過度のSMプレイで傷ついた人の治療を別口で請け負っているそうで、俺も例に漏れずお世話になっていると言うわけだ。
「やあ久しぶりだね。あまり元気そうではないね」
「お久しぶりです、先生」
「ここで会うと言うことは、あまり良くない状況なのかな。まぁ、とりあえず診てみよう。ズボンと下着を下ろしてそこに寝てくれるかな」
指示通りにしようとすると、診察室の入り口で腕を組ながらこっちを見ている父さんと目があった。
「出ていってよ」
「なんで」
「変態」
「失礼な」
さも心外だと言わんばかりの表情だが、なにが悲しくて父親の前で下半身を出した診察を受けなければならないのか。見られること自体は今さらではあるけど、TPOというものがある。
「ははは、前回のことがあるから心配なんだよ、お父さんは。どう?怖くない?」
前回、というのはアントニーにレイプされた時のことだ。あの時は彰吾以外の男に触れられるのがどうしようもなく恐くて、影山医師に対してさえパニックを起こしたのだった。
「......大丈夫だから、あっち行ってて」
「なんかあったら呼べよ。影山先生は蓬莱さんのお仲間だからな」
「やだなぁ、気味悪いこと言わないでくださいよ」
そうしてようやく父さんがいなくなって、診察が始まった。と言っても大したことはしない。視診と触診くらいだ。
「んっ......」
「えらくトロトロだね。さてはついさっきまでしてた?」
「は......ぁん、して、た」
「そんな声を出されたら、私も我慢できなくなりそうだ」
「ひぁっ、ぅんっ」
ナカをぐるっと大きく掻き回されて、すぐに指は抜けてしまう。
「少し緩んでるけど問題はないよ。出血もなし。今回は大きな外傷もないね。しかし、無理はいけないよ雅くん」
「......はい」
「身体以上に、何か心のストレスも抱えている感じかな。カウンセリング、行く?」
「いえ......大丈夫です」
「私は専門外だし、何も聞かないけど......。また、ショーを見に行かせておくれ」
「はい。是非。......先生」
「何かな?」
手袋を剥がしてカルテを書き込む影山医師の顔を覗き込む。こんなこと聞くだけ無駄なのだけど。
「先生は、俺のこと、好き?」
「おやおや......これはどう答えれば良いのかな。素直に答えて良い?」
「うん」
「そうだな、好きだよ。蓬莱さんのように惚れてるとまでは言わないけど......縛られている君を、診察ではなくこの手でめちゃくちゃにしてみたいと思う程度には、興味があるよ。......こんな答えで良かったかな?」
「ふふっ......ありがとうございます。ぜひ、いつか」
愛されたくて、求められたくて。ああ、そうだ。彰吾を失ったこの状況は、母が死んだ時と似ている。頼れる人を失って、無条件に愛してくれる人を失って、愛されたくて愛されたくて心が餓える。
父さんがいる。轟さん、芹沢さんがいる。離れているけど、蓬莱さんだって。それでも俺は貪欲で、愛されても大切にされても埋らない心の隙間を、数で埋めようとしている。
なんて、失礼な話だろう。わかっているのに、好意をはかってしまう。
「......ごめんなさい」
「なにも謝ることなどないさ。私の今の言葉に、嘘偽りはないよ。蓬莱さんに殺される覚悟で言うなら、抱いてみたいと思うよ」
「いつでも」
「またそんなこと言って。殺されるのは私じゃないか」
「ふふふ」
「まだ死にたくはないよ」
「殺させません」
「約束は?」
「口づけで」
影山医師と、触れるだけのキスを交わした。最後に少しだけ下唇に歯を立てて戯れる。
「キス一つで骨抜きにされてしまいそうだ」
「ありがとうございました」
いろんな男の顔を思い浮かべて、俺は必死で最愛の二人の面影を頭の中から掻き消した。
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