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父さんはまた地方に出掛けていた。いったいどうやって帰ってきたのか、俺は気づけば一人自宅にいて、自室のベッドの上に寝転がっていた。
片手に持ったスマートフォンは、ユキからのメールが一件未読のまま通知を知らせるように光っている。
この中には、彰吾に繋がる連絡先があるはずだ。このメールを開いて、その連絡先......それが電話番号ならば、タップするだけで彰吾に繋がる。
龍弥がいなくなってから、彰吾にも連絡を取ったことはなかった。海外に行ったから、それも短期間ではなく長期間となれば連絡先が変わっていても不思議ではない。それでも、向こうから俺に連絡をしてくることは不可能ではない。
彰吾からの連絡を待ってなかったと言えば嘘になる。彰吾は、きっと俺と龍弥を思って離れていったのだと思う。それでも、どんな些細な内容でもいいから少しくらい連絡をくれたりしないだろうかと、ずっと心の中で思っていた。......どこまでいっても、自己中な考え方なのはわかっている。
それが、連絡がなかったということは、俺のことはもう忘れたということなのだろうと思っていた。
ユキが言ったように、どこかでまだ彰吾は俺を好きでいてくれてるかもしれないと思っていた。けれど実際は彰吾からの連絡はない。それに、ユキは彰吾の連絡先を知っていたのに、俺は知らなかった。
『みやたんに会いたい言うてた』
ユキの台詞が蘇る。それが本当のことならどれほど嬉しいだろう。考えただけで心にぽっと灯がともるようだ。
でも、本当に?
ユキは彰吾になんと言ったのだろう。俺が会いたがってるとでも言ったのだろうか。龍弥のことを話したのだろうか。聞けば教えてくれるだろうが、そんなことどうでも良かった。
「彰吾......」
もし彰吾がまだ俺を好きでいてくれてたとして、再び彰吾を傷つけることはしたくなかった。たとえ今この場に龍弥がいなくとも、俺はまだ龍弥への想いは消し去れていない。そんな状況で彰吾に頼ることはできなかった。
それに......海外での仕事が軌道に乗り出したところに、俺のことなんかで煩わせたくなかった。俺なんか忘れて、成功して幸せを掴んでほしかった。
ユキの身勝手な行動は、それでも俺を想ってのことだったということはわかる。だからユキを責めるつもりはない。しかし俺は、ユキからのメールを開けることなく消した。
それが精一杯の強がりだった。
その直後に先生からもメールが一件入ったが、それも読まずに消した。
人に甘えるとろくなことはない。迷惑ばかりかけてしまうことになるなら、俺は一人で生きていく。
アングラの世界で、偽りの愛だけを囁いて、皆の人形として存在する。
それで良かった。
彰吾も、龍弥も、ユキも先生にも迷惑はかけたくない。
たくさんの人に愛された。その思い出だけで十分なのだ。
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