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はだかの王子様24
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明け方の街を、王子は靴も履かず走っていた。
「フラーさんっ‼︎」
街外れにある老人宅の玄関を何度も叩く。
「ライル様っ‼︎どうされましたか‼︎」
王子のただならぬ様子に、老人は何かを察した様だった。
「エドワードさんが、」
「…ファイム様が遂に動きましたな」
老人の静かな言葉に、王子は血に濡れた自分の手のひらを見つめた。
「…お兄様が?」
「おそらく」
「っ、どうして?僕のことが嫌いだから?」
「…ご自分を責めておいでか」
「だって‼︎エドワードさんは僕の執事になったからっ」
王子は地面にうずくまり拳を握りしめていた。
「あやつはタダでは死なぬ男でございます。」
「でもっ、」
「お可哀想な王子様。そんなに泣いたってもうどうにもならないのに」
「っ!」
突然後ろから声がして、王子が振り返るとそこには金髪碧眼の執事が立っていた。
「ユリールさんっ‼︎エドワードさんは⁈」
そう叫ぶ王子に、執事は光る物を投げた。
乾いた音を立てて地面に落ち、朝日を受けてキラキラと輝く
「…これ、」
それは王子が執事に贈った白銀のバッジ
「あの男は死にました」
「っ‼︎」
「そこにいる御老体はご存知だったのですよね。あの男の正体に」
「…エドワードさんが」
「ライル様、あの男は魔法使いなどでは無いのですよ。その方も。」
執事の言葉に王子は涙に濡れた瞳をフラーに向けた。
「あの男は切り裂きジャックと異名を持った殺人鬼だった。あなたの知らぬところで沢山の罪なき者を殺めたのです。御老体はその事をご存知で彼をあなたの執事にした。」
「…殺人、?切り裂き…ジャック…っ」
『私のことはどうぞ、ジャック、とお呼び下さい』
「貴方様に虚言し、殺人という最も罪深き行いを隠し、執事として貴方様に近づいた罪は重い。ファイム様が貴方様を心配なさって内密に私に調べさせていたのですよ。正体が分かったからには、危険な者を生かしておくわけにはいけなかったのです。」
「…彼は、もう、死んだ?」
「ライル様。」
フラーの呼びかけは、もはや王子には届いてなどいなかった。
「ライル様に危険を及ぼした御老体も処罰をと、ファイム様からのご命令でございます。」
「…どこまでライル様を傷つければ気が済むのだ」
「それはこちらの台詞です。あの男さえ寄越さなければ、この方はこんなにも傷つかなかったのでは?あの男に心を許し、失い、騙されていたと気づく。なんと悲劇的な。だから余計なことはするなと散々忠告致しましたのに」
「その幼き方に、罪はなかろう」
「ふふっ、この方はこの世に生まれてきたことそのものが罪なのですよ」
「…っ」
『よろしいですか?あなた様は幸せになるためにこの世にお生まれになられたのです。そして、私はあなた様を幸せにするために生まれて来たのです。』
『どうかお一人で全てを抱えこまないで下さい。どうか、私を信じて下さい』
『…ライル様をお守り致します。あなたのお側でずっと、』
「…ユリールさん」
「はい、ライル様」
ゆっくりと立ち上がった王子は、涙で濡れた頬を拭い真っ直ぐに執事を見つめた。
「僕をお兄様の所へ」
「…ライル様!」
「そこにジャックさんもいるんですよね?」
王子の言葉に執事はつまらなそうに眉を潜めた。
「僕、信じたいんです。ジャックさんを。僕を幸せにするために生まれてきたって言ってくれたあの人を。」
「私がそのご要望にお答えするとお思いで?」
執事が胸ポケットに手を入れると、フラーが王子の前に立ち、小さな体を後ろ手に庇った。
「フラーさん!」
「…なんと、本当にあなた方親子と言ったら…。お守りするこちらの身にもなってください。…そのように大切にされては、もう主無しでは生きていけない執事になってしまうのですぞ!…ユリールといったな若造。お主もこの様なお方に仕えていれば、その真っ直ぐな心をもっと違った形で生かすことができただろうに、哀れな」
「っ‼︎…お前も、私を哀れむのか‼︎あの男と同じように‼︎」
怒りに任せた執事の投げたナイフはフラーの杖に弾かれていた。
「っ‼︎フラーさん、すごい!」
「感心しておられる場合か‼︎走りますぞ‼︎」
フラーに半ば抱えられながら、王子は執事の前から姿を消した。
「…信じるだと?あの男はもう、死んでいるというのに。」
朝日が街を明るく照らし始めていた。
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