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Ⅰ
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「やっとこのビデオを君が見ているのかな。私が持っていたら恥ずかしくて処分しているはずだもんね」
テレビでは大人っぽいのに、今映っているあの人は思ったより子供っぽかった。
思わず笑ってしまうと、織部は俺と同じように笑って画面の向こうから俺を見つめていた。
「私の運命の相手。君はどんな子だろう?今いくつかな?学校は楽しい?」
質問はいくつも続いた。俺の名前は?俺の得意科目は?って。本当に俺の事が知りたくてしょうがないんだな、って感じで。
目を輝かせて聞いてくるから、思わずテレビに向かって「落ち着けって」と返してしまった。
答えはない。だって、あの人はもう亡くなっているのだから。
「ごめんね、質問ばかりで。君の事が、とても知りたいんだ」
甘く、低い声で彼が囁いた。背に寒気のような何かが走る。身体が、なんだか熱い。
「君は、私の事を知っているだろうか。テレビに出ている事を」
唐突に真剣な表情と声で、さっきまで甘い声に酔っていた俺の頭が覚醒する。ああ、やっぱりテレビで見ていたあんたとは全く違う。
知っているかって?……とてもよく知ってるさ。だって、俺はあんたのファンだったんだから。
「これから言う事は、十人並みなセリフでテレビに出ている私なんかじゃ信じる事は難しいかもしれない。
でも、忘れないでくれ。私は君だけを生涯愛している。会った事もないし、話した事もない君だけど、とても強く「君」という存在に惹かれてる。君がこの世にいる、君が同じ空の下で生きている事を感じる。その事を知っているだけで、私はとても幸せだ」
その表情は嘘を言っているようには思えなかった。心から幸せそうな笑顔を浮かべて。
あんたは馬鹿じゃないのか。会った事もない俺なんかを、生涯愛するって。
俺はそう思いながら泣けてきた。
俺のようなオメガなら、ベータと変わりない。それでいいと思っていた昨日までの自分を恨んだ。
馬鹿じゃないのか。
画面に手を伸ばして、液晶に指が触れる。画面の向こうではあの人が、織部が幸せそうな顔でまだ何か話していた。
――――会えない。触れない。これが、俺とあんたとの距離なんだ。
「会いたい……ッ」
会って、あんたに愛していると。俺もあんたを生涯愛していると、直接伝えたかった。
あんたにどうして会えないんだろう。どうして、あんたは死んでしまったんだろう。
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